『冥途の土産』





黄泉比良坂は陰気なところだ。
だが俺は嫌いじゃない。

亡者の群れは誰ひとり振り向きもせず
黙々と列を成して死の穴に歩いてゆく。
これだけの数の人間どもが、毎日毎日律儀に死んでいる。
ひどく滑稽だが、別段笑えもしない。

それを眺めに来る俺は 物好きにもほどがある。



男も女も偉かろうが何だろうが
とどのつまりは穴の中だ。
どれだけ這い上がったところで
死んでしまえば無力な虫ケラどもと同じ。

ガキのころはそれが嫌でたまらなかったが
いまは逆だ。


力が正義なら、死こそが最強だ。
泣こうが喚こうがおかまいなしに
すべてを奪い
すべてを拭い去る。



ここの亡者どもに比べたら俺の宮のにぎやかなこと。

…すすり泣く死に顔どもよ。
おまえら俺が恨めしいか?
それほど生が恋しいか?

あいにく俺はそうは思わねえのさ

いくら可愛がってやったところで
命とやらはあまりにつれない

だからたまにふと
この亡者の群れに吸い込まれて
あの穴に滑り落ちてみたくなる


いったい俺は
倒れる日に俺は、
死にたくないと思えるだろうか




…らしくねえことを考えるのは
今日が厄介な日だからだ。

誕生日。


命など塵のように生まれてゴミのように消える
まったく。
呆れるほどあっという間にだぜ。


俺が殺した奴ら。
まき添えくらったガキや女。
たとえどんなにゴミクズだったとしても
俺はおまえらを忘れようとは思わねえ。

俺もたいがいクズ野郎だからだ。





死に顔ども。

おまえらそこで待っていろよ。
巨蟹宮が俺の墓場だ。

そうは遠くないぜ
せいぜい楽しみにしていろ

俺が死ぬ日を。






意識をたぐりよせ、生身に戻った途端、
地の底を這うような無数の歌声が巨蟹宮に響き渡った。
「な…なにぃ」
俺はうろたえた。
各国語で念仏のように唄われるそれは
あろうことか誕生日の祝い歌。

「ああ、思ったとおり。フフ…嫌がってる」
アフロディーテだ。シュラもいる。
「おまえら…」
「こいつら、一曲歌う程度にはおまえを恨んじゃいないようだぜ」
「嘘をつけ」
この二人の入れ知恵に間違いない。
シュラが顎をしゃくると顔どもの歌声がいっそう大きくなる。
「ハッピバースデー」
「おまえらまで歌うな!」
「トゥーユー♪」
「最悪だ!!」





こうしてよりにもよって俺は俺の誕生日に
とんでもない嫌がらせを受けたわけだが。


…悪友どもめ。


俺は多分、死んでもこの日を忘れないだろう。






fin.

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皆様の素敵すぎるデスマスクを拝見していたら
降ってきた話です。十二宮戦の前あたり。
小説の体を成してませんが、愛だけは篭めました。

遅ればせながら
お誕生日おめでとうございます!!
デスマスク好きです。大好きです!!!

主催様、このような魅力的な企画をありがとうございました。


2008年7月1日
油すま吉拝

(↑休止中です)
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