洗い髪


***

長すぎる髪の水気を取っていると、
己の行為の愚かしさにふと引き戻される。
狭い部屋の奥から男の足が見えた。
意外にも大人しくベッドに収まっている。
その足の裏を見るともなく眺めていると、
シャワーの火照りも引いていくようだ。

「…やはり気が変わった」
タオルを放り出し、脱いだ衣服を掴むと、
ムウは手早くジーンズを履いた。
「帰る」
「おい…!」

男は去ろうとするムウに追いすがると両肩を掴み、
やおら唇を重ねてきた。
「…ん」
多少は申し訳ないと思う気持もなかったわけでもないが、
ムウはすぐさま後悔した。
(…この男は…)
呼吸が完全に奪われている。
(…なんて…)
ムウの後頭部が狭い玄関の壁にあたった。
(……下手なんだ!)
嫌な感じに心拍数が上がってゆく。
ムウが反撃を考えて身をよじったとたん、
体が自由になった。

男は拳の届く距離に歩を留めてこちらを見ながら、
吐き出すように言った。
「逃げる気か」
ムウは場違いな言葉に一瞬あきれたが、
その一方で、これはこれでこの男らしくもあり、
自分の性格を考えても、極めて妥当だ、と判じた。
明かりを背にしているため表情はよく知れない。
酒のせいか、目が赤く潤んでいる。

ムウの凝視から逃れるように男は顔を伏せた。
傲岸な口をきいても、内心はこの不慣れな状況に、
どうしていいか分からないのだろう。
「…受けてたちましょう、か。アイオリア」
ムウは不器用な手が自分を性急に剥ぎ取るにまかせ、
日焼けした背に白い腕を絡ませた。
夏の男はまだ汗の匂いがしたが、不思議に不快ではなかった。
高い体温が、押し当てられた胸板から伝わって、
ムウの体は再び熱を帯びはじめた。







まさかのリアムウです。いやまあ、そのなんですか、祝ってないけど、アイオリアお誕生日おめでとうです。さ…散文的にもほどがありますね。ものすご〜〜〜く久々なテキストです。一年弱ぶりくらいかな。 いろいろあって半ば書きのほうは投げていたのですが。書かないと書けなくなるものですね。要リハビリです。 090818




キス


***


「…いっこうに上手くならないですね」
唇を離すとムウは遠慮なく言い放った。
不満げでもなく、怒っているふうでもなく、
単純に疑問を感じてるようだ。
「それは…」
オレは答えようとして口をつぐんだ。
まさか理由があるとは思わなかったのだろう、
ムウは目を輝かせながら顔を近づけてきた。
「何です?」
オレは逃げたかった。しかしムウはこんなとき
普段は見せないような少し甘えた上目遣いで
退路をふさぐ。
そんな狡猾さにうすうす感づいてはいても
まだ耐性がないオレはうろたえた。

「…壊してしまいそう…で…」
「恐いんだ」という言葉をかろうじて飲み込んだ。
そうだ。この男の顔は綺麗すぎる。
長い睫毛も瞳もやたら細かい作り物のようだ。
案の定ムウが呆れたように、ため息をついた。
確かに多少力を入れたくらいでこいつが
怪我をするわけでもなく。

「…あんなことするくせに?」
さんざん貪りあった後であった。
消耗しつくしたと思ったのにその記憶だけで
また体中の血が騒ぎ出した。

ムウがからかうように上唇をかじる。
「…よせ…」
声が情けなくかすれた。
ムウの舌が隙間から滑り込むと同時に唇が塞がれた。
熟れた果実を皮ごとやさしく潰すような巧みさだ。
ほどなく唾液が溢れてムウの喉が鳴った。

…これではどちらが狩られているのか分からない。
反撃をしようと薄目を開けると、長すぎる睫毛に圧倒される。
…ほんとにこいつは…

「大丈夫ですか?」
「…な…何が…だ」
「鼓動が異様に早い」

極めてバツが悪かった。
…だからキスは苦手だ。
オレだけが惚れてることがバレるじゃないか。





キスが上手い男ももちろんいいですが、キスだけがなぜかちょっと苦手な男ってのも個人的には萌えます…。090821
23日追記:ご指摘いただいたように男はデスマスクあたりでもいいですね。というか最後の台詞はちょっとかにっぽいと自分でも思います。アイオリアがもしこのくらい自分の感情に素直ならきっともっといろいろ上手くいくんだろうなあとか…




seize it


***



その日、何を望むか訊かれたとき、男は黙ってムウの白い手を握った。
ムウは驚いて男を見たが、その無愛想な横顔は「嫌ならふりほどけ」、 とだけ言っていた。
その手は拳を圧するでもなく、ただ無言でじっとムウの手の上に留まっていた。

今、まるでその時と同じように、男の体はムウの中に自身を収めたまま、
しばらくその上でじっと動かずにいた。
無理な体勢には慣れていたムウであるが、胸の苦しさと下肢の痺れに息を吐いた。
「ん…」
計らずも高い声が漏れ、羞恥のためかムウの内部が震えた。
それを合図に男は驚くべき疾走をはじめた。
せわしない律動に筋肉がきしむようだ。
緩急をつけたり、卑猥な言葉でねぶったりするようなことはなく、黙々と楔を打ちつけている。 相手を慮る余裕などなく、しかしそれでいて自分も快楽を味わうような様子もなく ただ欲望を吐き出したいだけなのかもしれない。
それなのに男はなにかひどく切迫した風情で、ムウの体をすがるようにかき抱く。
そのやみくもなひたむきさはムウの心に触れた。

乱暴にゆすられて、ムウの内部には絶えず荒波が立ち、激しくぶつかり砕けて散った。
痛みは次第に快楽に転じはじめ、閃光のような鮮烈さでその身を切り裂いた。
「くっ…」
ムウはかろうじて叫びを堪えた。その拍子にわずかに浮いた腰に男は手を回し、あっという間にムウをうつぶせに翻した。
男は左手でムウの肩口を掴み、敷布に押し付けると、右手でその腰を高く上げた。
声をあげる間もなく、脚を広げられ、男が押し入ってくる。
「…っ」
楔はさらに深くムウの内部をえぐり、ムウが低くうめいた。
ムウの顔は苦しげだったが声音は甘く、男はまた動き始める。
「待…っあ、ああ」
ついにムウの箇所はさぐりあてられ、容赦ない追及を受けた。 揺すられるたび悲鳴のような声がムウの口から零れる。
男の短い髪から滴がしたたってムウの白い背を流れていった。
手ひどい扱いにも関わらず慣らされたムウの体は速やかに限界を迎えた。
ムウの背が痙攣すると、男は露わになった白い首筋に噛みついた。
反射的にムウの動きが止まる。まるで猛獣の狩りさながらだ。
背中にどくどくという脈が聞こえたかと思うと男は果てた。
さきほどまでの無礼が嘘のように、男はムウの傍らにおとなしく横たわると
汗にまみれた胸にムウの頭を抱きよせた。
「…けた」
破裂しそうなほど高鳴る心音に混じって男が何かつぶやいた。
「…?」
思わずムウは顔を起こした。
「負け…た」
「……」
どこまでも良く分からない男だったが、ムウはなぜか穏やかな笑みが浮ぶのを禁じえなかった。

羊狩りというか羊狩られ…。ムウ様にはもっとうっかりあられもない言葉を口走ってほしいのですが、これがなかなか。もっとなんというか湿度がほしいです。個人的にはじらすとかいたぶる系のが好きなんですが書くとなると難しいです。090823


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