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六月の、ひどく暑い日のことだった。 「そこ、空いてる?」 聞き覚えのある子どもの声にわたしは瞑想を破られた。 また夢かと思って目を開けるとそこにはムウが立っていたのだ。 「…ムウ!」 「久しぶり」 ムウはそういうとにっこりと笑った。 あれから七度目の夏を迎えたというのに、その姿は幼いままで、その髪すらもあのときのままだ。 「ほんとうに…君なのか…」 「ほら脚があるよ。幽霊じゃない」 ムウはそう言うとその露出の高いズボンでわたしの腿にまたがるように座った。 我々の胸と胸はあのときのように重なるわけもなく、わたしはその肩の薄さ、腰の細さに驚いた。 ムウはわたしにその身をすりよせ、甘えたような目つきで見上げる。 「ね…」 あの頃には気付かなかったムウの白桃のような瑞々しさにわたしはひどく欲情した。 「会いたかった…」 そう言うとムウはわたしの胸に顔を埋めた。 「…ああ」 わたしのほうこそ。どれほどこの奇跡を待っただろうか。 かつての思いが鮮烈に蘇り、わたしは辛うじて自我を保った。 そんなわたしの苦労をよそに、ムウはわたしの腰にまたがったままベストをたくし上げ、 シャツの前をはだけた。 白い、蝋のような肌が露わになる。 驚くべきことに、あのときの、あの短剣が刺さっていたところの傷跡が生々しく口をあけているではないか。 わたしがつけた跡までも周囲に蒼く残っていた。 ムウは愕然とするわたしの右手を取るとその傷口に指を差し入れさせた。 柔らかい粘膜が指に絡みつく。 しかしそこからの鼓動が…わたしには感じられなかった。 「ん…っ…は…あ…動かさないで」 その声の甘さにわたしはたまらずムウを押し倒した。 ムウは微笑みながらわたしの肩に片脚をかける。 「君は…」 すでに人ではないのだ、という思いがちらと脳裏を掠めたが、 その短いズボンから覗く曲線に、わたしの理性は白くはじけた。 気が付くとわたしはその背を抱き幾度となくムウの中に欲望を吐き出していた。 向き合って、そして組み伏せて、さらにあの男がしていたように背を向けて…。 ムウの背を覆っていた翼は、あのときは輪郭線だけであったのに、いまやその羽根の一枚一枚までもが 描線で埋められ、尻の上部まで隙間なく覆っていた。 あれほど痛がっていたのに、その翼に触れながら衝くとムウは身を捩じらせて「もっと」とねだった。 その線を舐めあげるとムウははしたないような嬌声を上げ、喉を鳴らす。 ムウの肌はひんやりとしているのにその中はきつく熱くわたしを締め上げる。 …ああ。 単なる肉塊の摩擦であるというのに、この行為は何故これほどまでに甘いのだろう。 脳裏が白く濁るたびにわたしは何もかもが崩れ、骨の髄までが砕け散るような心地がした。 すでにこの身を、心をとらえるのはムウのこの白い体ばかりであった。 ムウの鋭い痙攣にわたしは不滅の炎を見る…。 どれだけ貪ったことだろう。 長い日が暮れ始めたころ、ムウがわたしに何かを差し出した。 「これ…あげる」 あの十字架であった。 わたしは何のためらいもなくそれを首から下げた。 山の端は燃えるような夕焼けだ。 「来て」 わたしはムウの手をとり、いつしかあの山道を歩いていた。 終 |
