|
業苦 肩口から覗く肌は病的なほどに白く、 浅い呼吸にせわしなく上下している。 長い髪はすでに解かれ敷布に緩やかな曲線を描く。 きつく寄せられた眉根が眼に見えぬ緊縛の強さを物語る。 事実、自らは睫毛一本も動かすことができない。 その従順すぎる姿を嗤いながら、黒髪の男は 重い法衣もそのままに、その美しい生贄に手をかける。 布をするりと剥ぐと白い背と片腕が露わになった。 うっすらと汗を浮かべた肌は大理石の彫像のように輝くが 触れると、思いのほか温かい。 なめしたばかりの子羊の皮のように薄く張った皮膚の下で 果実のような青い肉がひそかに息づいている。 男は豊かな髪に埋もれた白い首筋を背後から掴み、 指先にトクトクと脈の打つ感触を楽しみながら喉元に指を這わせた。 …いつ、縊られてもおかしくない…動けぬ体が反射的にすくむ。 男の長い指は頤の薄い皮膚をすべり耳朶に達する。 爪弾くようにその柔らかさを弄ぶと急に首筋が熱を帯びだした。 赤く染まった耳介を指の腹で軽く撫でるとかすかな呻きが漏れる。 白い背を分かつなだらかな畝を男の舌が這う。 唇が触れるたびに焼きごてでも押されたかのように その身が大きく跳ねた。 吸いあげられた肌に紅が散る。 皮膚から侵入した熱はじわじわと体の奥の焔を誘う。 一度放たれた火は速やかに広がり白い体を舐め尽くす。 白い背が薄赤色の滲みに覆われる頃にはそのなかもゆるく溶けていた。 涙が止まらないのはこの男のためではない。 師の仇に弄ばれて昂ぶる四肢が、 強引に剥がされて煮溶かされてゆく理性が、 口惜しくてたまらないのである。 「そろそろ鳴くか」 耳元で低くささやく声に思考がかき乱される。 戒めが解かれ反撃の機会であるのに身体が言うことをきかない。 解放された口をついて出るのは喘ぎばかり。 だが声を上げて快楽を逃がさねば正気を失いかねない。 拒絶の言葉は徒にこの男を煽るだけだった。 男は狂人である。 だが責め方を識っているほどには智恵があった。 苦痛は聖闘士にとっては親しいものであり事実良く耐ええていた。 放蕩を尽くし快楽に飽いた暴君があえて選んだのは 愛という名の拷問であった。 少女のような可憐な顔が憎しみに歪み 大きな瞳が恨みに燃えるのも悪くはない。 だがこの男が己自身の業ゆえに己の信念を裏切り それに苦しみ悶えるさまを見るのはなんという悦びだろう… この哀れな獣が己を抑えきれずに許しを乞うのを聞くにいたって 男は…サガは支配の何たるかを知った。 情欲の炎は若いムウの体を直ちに蝕み、芯から染めあげた。 墾かれた身体は、肩口に触れられただけで快楽に戦慄いた。 終焉を、せめて休息を求めてムウは足掻く。 だがその炎は逃れようとすればするほどに深く 牙を立てその身を喰らい、 骨にまでに爪を食い込ませ、ついには心を砕いた。 全てを奪われながらムウは待った。 この男が自分に飽くのを。 せめて忘却という恩寵を願ったが それすらも果たされなかった。 ムウは独り待った。 風ばかりが吹きぬけるかの地で待ちつづけた。 裁きが下される日を。 だが十年の月日は少年には長すぎた。 たとえそれが悪魔のものでも 差し伸べられた手に縋らずにはおれなかったほどに… fin |