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【ご注意】 サガムウ前提のアフロディーテ×ムウです。 サディスティックな描写があります。許容範囲が広い大人向けです。 まっとうなアフロディーテが好きな方はお読みにならないでください。 ********************************* 花棺 春。 太陽は沈むのを忘れはじめる。 長い日が穏やかに陰るころ、 双魚宮の床は薔薇で埋め尽くされていた。 花園の中央には花弁に埋もれた白い裸身があった。 投げ出された手足は死人のように青白い。 胸にはひときわ大きな薔薇が一輪、朱に濡れて照りかえっている。 鮮血はあと少しで残りの花弁を染めあげるところだった。 裸の胸がゆっくりと上下するたびに赤い雫が滴り落ちる。 わずかに開いた目蓋や色を失った唇には苦悩の色はなく、 快楽を啜り尽くした恍惚の笑みが浮かんでいる。 汗で張り付いた花弁がひらりと落ち、情交の跡があらわれた。 花と交わる客人はムウである。 そのさまを傍らで彫像のように冷たく見下ろしている男は この宮の主、アフロディーテだ。 * * * 3月10日。 三度目の生を経て迎えた最初の誕生日を アフロディーテはいささかうんざりした気分で迎えていた。 誰も彼もが同じようなおべっかを言い、夜には騒がしい宴会。 聖域の平和は喜ぶべきなのだろうが、それで心穏やかになれるほど 彼は目出度い人間ではなかった。 不機嫌の種が自宮を訪ねてきたところで、アフロディーテは苛立ちを露わにした。 八つ当たりにいちいち生真面目に謝るサガは、かつて彼の愛した男の面影もない。 アフロディーテの凍えるような眼差しに耐えかねた挙句、 「欲しいものならなんでも贈ろう」 などと不用意な言葉を吐いた。 彼の恋人の名が挙がると、サガはさっと顔色を変えたが、 「わたしを信じていないのか」 と噛みつかれるとまた押し黙った。 かくして彼の従順な恋人は来た。 サガにあっさり裏切られたと知ってもムウは気にする様子もなかった。 「何がお望みですか」 ティーカップを置くとムウは表情も変えずに言った。 実際、この男は柔和な表情を崩しもせず、どんなことでもやってのけるだろう。 「面白くない」 ムウが何かを言おうとしたがアフロディーテはそれを遮った。 「別に奴隷が欲しいわけじゃないんだ」 「そうですか。では失礼します」 「強いて言えば人形、かな」 椅子から立ち上がろうとするムウを視線で制すと言った。 「君はサガのおもちゃだろう」 ムウの表情がにわかに固まった。 「…いつの話ですか」 「自覚はあったんだな」 平静を装ってはいるが、ムウの白い頬が淡く染まる。 「今は違いますから」 「ふうん」 ついこぼれた惚気をアフロディーテは適当に受け流した。 「…それで君は本当に満足かい」 「何を…」 低い声音の真意を計りかねて、ムウはアフロディーテを見た。 「君は動かないでいてくれればいい。簡単だろう?」 派手な音が床に響いた。 椅子ごと投げ出されたムウの肩近くにその膝を折ると、 アフロディーテはまずその垢抜けないショールを剥いだ。 首筋から襟元にかけて白い肌が晒される。 そのまま何をするでもなく、アフロディーテはムウを見つめた。 白いだけならめずらしくもないが、そのきめの細かい肌は うっすらと湿ったような光沢を帯びている。 あまり彫りの深くない顔と長い睫毛は女のようというより少女のようだった。 唇の色は薄く目立ちはしないが、少し血の気を帯びるとふくよかさが知れる。 儀礼を思わせる眉化粧は子供の頃のままだった。 「動くな」 視線を伏せたムウを叱ると、自分を見つめ返す深い緑色の瞳が揺れた。 …ああ。たしかにこれは… 急に笑みを浮かべたアフロディーテをムウは不審そうに見た。 「やっぱり人形は綺麗なほうがいいね」 アフロディーテの手の中になにか黒いものがよぎったと思うと ムウの服は細かく裂かれた。 裸にされ、ムウは羞恥よりも安堵を覚えた。 遅からず終わりは見えたと考えたからだ。 どれほど酷く扱われたとしても、その行為はたかが知れている。 だがアフロディーテは依然としてムウを見つめているだけだった。 ムウは観念して空に視線を投げていたが、ふと柔らかいものが肌を滑る感覚に、 体をこわばらせた。 アフロディーテが深紅の薔薇を手にして肌を撫でている。 それは足の裏からくるぶし、引き締まった脛や膝の裏側、腿の内側をかすめ、 脇腹や胸、咽元を何度も往来した。花弁の吸い付くような柔らかさに混じって 棘が鋭く肌を掻く。 細く赤い線が幾筋も重なるころにはムウの呼吸は浅く、熱を帯びはじめた。 毒は甘い痺れを伴って手足の爪の先までムウの体を侵した。 よほど深くまで沁み込んだのか、皮膚は花弁の重なりすらも鋭く感知する。 熱が快楽に変わるのはすぐだった。 ムウは唇を噛んで声を堪えた。 鼓膜にどくどくと脈打つ鼓動が響く。 萎えた手足はときおりビクリと反射を繰り返すだけだ。 息苦しい快楽に体の芯だけが熱く滾っている。 責めたてられ、追い詰められても昇りつめる直前で突き放される。 すでに爛れた神経は、這いまわる花弁ではなく鋭い棘を望んでいた。 いっそ茨の鞭で引き裂かれたほうがましというものだ。 アフロディーテの眼差しはどこまでも冷たい。 いつまでこの責めが続くのかと思うとムウはたまらなかった。 「こんなことが…楽しいのか?」 どのみち醜態をさらすなら、より早い解放を期してアフロディーテを煽ってみたが、 それは見抜かれていたようだった。 「うるさいな」 アフロディーテは持っていた薔薇の花弁をむしり取ると 「ほら、口を開けて」 ムウの口いっぱいに押し込んた。 「っ…う」 過敏になった粘膜を無理に押し広げられ、唾液が溢れた。 人形に言葉などはいらないということだろう。 泣いて懇願しようとも、そんなことは関係なく気のすむまで遊び倒されるのだ。 溶け出した花弁の強烈な香りに思考が塗りつぶされ、視界が紅く濁る。 「っあ」 意識が遠のいてゆくと思ったそのとき、 アフロディーテが脇腹を一蹴した。 「あ…ああっ…あ」 いったん声をあげてしまうともう止められなかった。 触れられてもいないのに、快楽の余波が細かな喘ぎとなって続けざまに零れる。 その声を遮るようにアフロディーテはムウの膝を割った。 ムウは息を飲んだ。 下腹部に冷たいものが押し当てられたからだ。 それはよく手入れされたアフロディーテの革靴だった。 半ばまで充血したムウの中心に平たい圧力がかかる。 「い…」 そのまま踏み抜かれるかもしれないという本能的な恐怖と、息が詰まるような苦痛に ムウの顔が歪んだ。 「い…やだ」 その喉から拒絶の言葉が絞り出される。 「嫌、か」 アフロディーテは歌うように言うと 「何でもすると言ったくせに」 靴越しにその弾力を楽しみながらゆっくりと踏みしめてゆく。 「嘘つきだな」 「うああああっ」 あまりの激痛に目の前で火花が散るようだった。 それでも苦痛の波の打ち寄せる彼方で切ないほどの快楽の渦が湧き上がっていた。 その無慈悲な圧力を求めて背が反り、脚が開き腰がせり出してゆく。 「これが欲しかったんだろう」 「…う…うう」 舌が痺れて呂律が回らない。涙だけが後から後から溢れてくる。 「いいザマだ」 吐き棄てるように言うとアフロディーテはそのつま先で、張り裂けそうに充血する箇所を 蹴り上げた。 意味のない言葉を叫び、がくがくと全身を震わせて、低く呻きながらムウは果てた。 花弁が気管にまとわりついて、ムウは激しくむせた。 気がつくとアフロディーテがまだこちらを見ていた。 その眼差しがかすかに熱を帯びている。 …この美しい男にはとうに知られているのだろう。 涙と涎とを垂れ流して身悶えたのは毒のせいではない。 無理矢理に昇らされるのは胸が詰まるほど懐かしい感覚だった。 その感覚とともに記憶が引きずり出される。 狂わされて肉塊に成り果てた悪夢のような日々。 …あれほど強く、深く、鮮烈に酔うことなどないと思っていたのに。 「酷いことが好きだろう」 アフロディーテはからかうようにささやいた。 「君も……サガも」 「あの男は…」 アフロディーテの目から急に笑みが消えた。 「ほんとうに人でなしだ」 その名を口にするのもいまいましいといった様子で、 アフロディーテは長い指で髪をかきあげると低く呟いた。 「結局わたしたちを置き去りにしてあの男は消えてしまった。 今更いくら足掻いたところであのサガはいない。いないのだ」 アフロディーテは視線を宙に向けたまま続けた。 「サガに従って散ったわたしを君は羨ましいと言ったが できることならそのまま二度と陽の目など見たくはなかった」 アフロディーテが声を荒げるなど初めてだった。 ムウは思わずその横顔を見上げた。 長い睫毛が震え、瞳は少年のように揺れている。 しかしすぐにアフロディーテはその美しい瞳を細めると、ムウに棘を向けた。 「もう戻れないな。君も」 その通りだった。 もはやその身の飢えと乾きが真に満たされることはないだろう。 「君を泣かせたらどんなにせいせいするかと思ってたけど意外に楽しくて驚いたよ」 ムウの涙に濡れた瞳がアフロディーテを見つめた。 それは怒りでも諦めでもない哀願の眼差しだった。 ムウが乞い願っているのは、さらなる責苦に違いない。 アフロディーテの背をぞくりとするほどの喜びが駆け抜けた。 「欲しい…か」 体はおろか舌も動かすことができないはずの、 ムウのその瞳は、たしかに頷いた。 「そんなに欲しいか」 アフロディーテはムウの頬が再び桜色に染まるのを見た。 その陶器のような白い肌はどれほど柔らかく、熱いだろうか。 それを引き裂きたい衝動に駆られながらアフロディーテは深く息を吐いた。 「君には茨の棘が、苦痛と悔恨の涙が似合う。…知っているか? それが許されるのは、ほんの一握りの人間だけなのだ」 アフロディーテの手のなかに輝くように白い大輪の薔薇が咲いた。 「君を貫くのはわたしの薔薇に譲るよ」 アフロディーテはその純白の花弁に深く口付けた。 「きっと君に良く似合う」 白薔薇はアフロディーテの手を離れるとまるで自らの意思を持つかのように、 まっすぐムウの胸に茎を埋めた。 ムウの口から高く鋭い叫びが漏れ、深々と沈みゆく楔に甘い嬌声をあげながらムウは 果てた。しかし呼吸が整うとムウはまた、すがるような眼差しを向けた。 「ははははは」 その貪欲さにアフロディーテは思わず声をたてて笑う。 「負けたよ。どこまで君は意地汚いんだ。」 ムウの瞳がかすかに笑み、顔からは次第に血の気が引きはじめた。 * * * 「呆れた」 アフロディーテはもはや声など聞こえていないだろうムウに話しかけた。 「いくら上っ面を剥がしてみても、君の心には誇りの欠片すら残っちゃいない」 ムウを壊したのは自分だけではない。 かつてのサガと、そして今のサガがめちゃくちゃにしたのだ。 それほど心を切り刻まれてなお、君があの男にしがみ付いている理由は何だ。 それが愛というならそんなものはやはり認め難い。 サガは自分自身しか愛せない男だった。 だから君もわたしと同じ絶望を味わえばいいと思った。 それなのに君は、君自身よりもサガを愛してしまった。 …だからなおさら許し難かった。 「君は本当にそれでいいのか」 何度でも問い直したい。 今のサガなど、思い出すだけでも反吐が出る。 …こんなにサガが憎いのはひょっとしたら君のせいかもしれないな。 どうやらわたしは… 「アフロディーテ!何を馬鹿なことを!!」 そこまで考えたとき、憎むべきかの偽善者が飛び込んできた。 興冷めもいいところだ。 アフロディーテは派手に舌打ちをした。 「今久しぶりに馬鹿なことをしてるんだ。止めないでくれ」 サガはその言葉も聞かずムウに駆け寄ったが、 すでに深紅に染まり終えようとしている白薔薇に言葉を失った。 「無理に抜くと血が噴き出すよ」 「アフロディーテ…いったい…」 「ムウをわたしにくれるなら助けてやる」 「ふざけるのもいい加減にしないか!」 「悪いが本気だ」 そう言ったときのサガの間抜けな顔といったらなかった。 …ムウ。やはり君はあんなサガには勿体無いよ。 わたしのところで好きなだけ咲き狂ったらいい。 花の棺は静かに運び去られて、夕闇が一人佇む主を包んだ。 薔薇はその美しい客が訪れるのを密かに待ちつづけている。 終 ********************************* タイトル『花姦』だったんですけどあまりにあからさまなのでやめました。 以前、人品を疑われるとか云々して上げなかったのがこれです。 いやもう人柄なんて充分あやしくて、きっと変な柄です、はい。 多少「痛い」描写は、ムウ様が望んでのうえであれば自分としては許容できるのですが もし不快に感じた方いらしたら申し訳ありません。 薔薇責め自体はアフロディーテ攻めにはよくあるネタかもしれないですね。 瞬が助かったので、ムウ様も死ぬわけないでしょうが、 この不始末、すべてサガが怒られればいいとか思います。 2008.04.09. |