*ムウ様のモノローグによるどこまでも麻呂なお話です。
*カップリング的な要素(シオンムウ)と若干フェティッシュな傾向があります。



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楕円幻想









夢を見た。
わたしとシオンは切り立った崖の上に立っていた。
あたりは粘つくような闇で、くろぐろと眼下に広がる淵はどこまでも深かった。

生ぬるい風が吹いた。

シオンがわたしの胸をとん、と押した。
抗うことも避けることもできず、わたしはそのまま力の方向へ身をまかせた。
わたしの足は土から離れ、ゆっくりと闇に飲み込まれる。
シオンはこちらを見下ろしたまま、微動だにしない。

逆さに沈みながら、わたしは呆然と、遠ざかる師を見た。
その瞳は低く昇る月のように赤く、長い髪は風に揺れて、白い額に並ぶわたしたちの印が、見え隠れしている。

シオン・・

わたしは名を呼ぼうともがいたが、 そこで目がさめてしまった。
いつまでも生々しい浮遊感が残る、不思議な夢だった。






ちょうどその日の午後、わたしは教皇の間に召された。

従者はなく、師はひとり玉座に座っていた。
額づくわたしに、師は近くに寄るように言った。
師の足元でまた膝を折ると、シオンはわたしの喉元深くに手をさしいれ、
顎をつかみ、顔を上向かせた。

わたしは師のするがままに任せた。
強引なのは常である。
しかしそれでもなお、その風のない湖水のように滑らかな両眼に見つめられると、わたしは射られたように、動けなくなってしまう。

師はその若すぎる手で、わたしの額をさらりと撫でた。
うつむいて乱れた前髪を払ったのか、と思われたが、そうではなかった。
もう一度、こんどははっきりと師の指先がわたしの額に触れる。
額の、わたしたち一族の証であるふたつの印を、師の指がなぞっていた。
そこに触れられるのは幼い頃に色を刺して以来かもしれない。
そこだけ僅かに硬くなった皮膚を確かめるように師の指が何度も這わされる。

しばらくそうして触れていた師の指が、とんとん、とそこを軽く叩き出した。
はじめはむずかゆいような感覚であったが、しだいにそこは熱を帯びたかのように痺れ、表皮は渇き始めた。
よく手入れのされた爪先の円弧が、硬く当たるたび、その小さく鋭い痛みは頭蓋ばかりか、胸の底にまで響いた。

頬が熱い。 師の指がわたしの汗で濡れている。
気づけば、きつく閉じていたはずの唇が、いつのまにか僅かに開いていた。
師の前でそのような、だらしのない顔を晒したかと思うと、わたしは羞恥で消え入りたいような衝動にかられる。
けれどそれはさらに許されないことだった。


伏せていた目を上げると、師はまっすぐにこちらを見ていた。
急に鼓動が激しくなり、こめかみが、どくどくと脈を打った。
呼気は今にも止まりそうなほど浅い。
わたしは大きく息を吐いた。

その刹那、師は両の印に強く指先を押し当てた。
いつのまにかその皮膚は、水泡を孕むかのように柔らかく潤っている。
そこをまるで押しつぶすかのように平たく圧せられ、思わずわたしは声を漏らした。
師の指先がその薄い表皮をやぶり、骨に食い込むような錯覚をうけ、わたしは声を堪えながらうめいた。


頬が熱を帯びているからだろうか、したたり落ちる涙がひんやりと冷たい。
意識が遠のきかけたころ、師はようやく指先を外した。
支えを失ったわたしは床に崩れた。

すると、なんということだろう、わたしをかかえるようにして、師がわたしの上に体を重ねてきたのだ。 師の、法衣に焚き染めた香がわたしを包み、長い髪がふわりと視界をさえぎった。

わたしは言葉もなく、さかさまに映る師の瞳を見た。
師の手がふたたびわたしの頬をとらえ、その瞳が近くなると、わたしは思わず目を閉じた。
どのような顔をしてよいか分からなかったからだ。

柔らかいものが額に押し付けられたかと思うと、濡れた舌先が触れた。
それはまるで脳髄を芯まで蕩かすかのように熱い。
柔らかい舌が往来するたびに、耐えがたい痺れが背を揺るがした。
師は震えのとまらないわたしを強く抱きながら、舌先で丹念に円弧の輪郭を追う。

「…ォ…ン…ッ…シオン…!」

拒絶は言葉にはならなかった。
嗚咽のような短い叫びは許しを乞いているというよりも、その責めを悦ぶかのように甘かった。
なぶられ、吸われ、歯を立てられながらわたしは、いつのまにか子供のように泣きじゃくっていた。
しかし、そこからもたらされるのは紛れもない性の快楽で、わたしはあられもない嬌声を上げながら師の前で何度も果てた。

そのようなわたしを師は試すかのように見ている。
気が狂いそうなほどの羞恥と快楽で、わたしはただ、必死に師の名を呼びながらすがり付いた。




どれほどそうしていたことだろう。
叫ぶ声もいよいよかすれてきたころに、師は顔を上げた。
わたしはようやくその目を見た。

師の瞳の赤は濡れていっそう深く鮮やかだった。
しかしどこか悲しげなその色は、かつて見ていた師のまなざしだった。
師は何も言わずにわたしの肩口に顔を乗せると、傷を負った獣のようにわたしの傍らに静かに身を横たえた。

わたしはおそるおそる、その、白い額に唇を寄せた。
そのふたつに交互に口付けるうちに、わたしの体は再び熱を帯び始めた。
師もまた同じなのかもしれないと思うと、激しい歓喜が体を貫いた。

師がゆっくりと目を開け、わたしの頭を抱いた。
わたしもまた、そのたてがみのように豊かな髪に指を滑り込ませる。
鼻梁を避けながら、わたしたちはまた顔を寄せ合った。


師の舌が、またゆっくりとわたしの楕円をなぞり始める。
わたしもそれに応えるかのように舌を這わせる。
彼我の境はすでに溶け去った。
どちらの体が震えているのかすら分からない。

わたしたちはあまりにも完全に絡み合っているから
もはや二度と離れることなどないのだ。


涙があとからあとからあふれ出す。

わたしは久しく忘れていたことを思い出した。
冬の日差しのような、この甘く切ないぬくもりを「幸せ」と呼ぶのだと。










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2008.11.08.






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