ムウを見送って宮に戻る途中、背後で人の気配がした。
           
「今出て行ったのはやはりムウか。」
アフロディーテだ。なんだか嫌なタイミングだな。
「おう、おはようさん。」
俺が平静を装って挨拶をした刹那、
プス。
額に問答無用で薔薇を突き立てやがった。
「てっ…何するんだよ!?」
「…デスマスク。君が何をしようが私の知ったことではないが」
「アフロディーテ?」
「君がムウの奴と一緒にいるのは、面白くない」
「だからっていきなり毒薔薇を刺すか?何薔薇だコラ!」
「白だ。でも手加減したから死にやしない…フン、我ながら自分の甘さに嫌気がさす」
「っておい、待てよ!」

アフロディーテはすたすた自宮に戻ってゆく。追っても無駄だろう。その元気もない。
しかし額に薔薇を咲かせているのはあまりに間抜けなので仕方なく力まかせに引き抜いた…やはり痛かった。
白薔薇は半分ほど色が染まっていた。

…貧血でふらふらする。さっきの疲れが一気に戻ってきたようだった。            

ふと刺すような視線を感じて見上げると、上の宮でシャカがこちらを見下ろしていた。奴はこちらに気付くとすぐにきびすを返して宮にもどって行く。
とんでもなく嫌な予感がして巨蟹宮に戻ると…床一面に無数の亡者の腕が手招きをしていた。
「・・・・・・・」
俺にとっては亡者など痛くも痒くもないが…いちいちこいつらを冥界波で送り返すのは相当に手間がかかるのだ。処女宮まで出向く気力もなかった俺は小宇宙で文句を言った。
「シャカ!なんのつもりだ」
「君はムウと寝たのかね」
「は?」
「寝たのかと訊いている」
…もう…勘弁してくれ。俺が何をしたというんだ!
「…あれはなぁ、あいつが勝手にベッドに入って来て…」
「天空破邪魑魅魍魎ー!!」
「人の話を聞けよ!!!ぐわっ!!」
 
                 
その後、小一時間ほど亡者どもと格闘、ようやくなだめすかして全員に帰ってもらった。

俺の精神的、肉体的疲労はピークに達していた。
…壁際に倒れるようにもたれかかる。
「……ッ」
虫の息とはこのことを言うのだろう。ぜいぜいと呼吸が乱れる。肩で息をするのも苦しい。俺は立ってはおれず、床に倒れこんだ。


廊下に響く靴音に、かろうじて閉じかけた目を開ける。

「わたしのムウがすいぶんと世話になったな。」
法衣を来たシオンが仁王立ちしていた。
「礼を言うぞ」

         
空高くを舞上がりながら俺は確信した。

ああ…
ムウの野郎…
絶対あのときのタコ殴りを根に持っていやがる…!
アリエスのムウ。

俺はやはりあいつが大嫌いだ…!


(終わり)

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