*       *        *


はたして大問題になった。

その夜、ムウもシャカも教皇の間に呼び出された。
前教皇亡きあと聖域は合議制を採っている。この問題を議論するため、聖域に残っている黄金聖闘士たちが集められた。

「本日、白昼にバルゴのシャカが白羊宮で攻撃的小宇宙を放ったという証言があるが、 これは真実か?」
年長のサガが議題を総べる。

「戦闘目的ではないが、小宇宙を使用した。」
シャカは促されるまま答える。
「ムウの小宇宙があれほど揺らぎ疲弊したのに、戦闘目的ではないと?」
サガの追求は止まない。
「それは」
「私が説明しましょう。」
シャカに任せたらこの場で何もかも話されてしまいそうである。
ムウは多少不躾なのを承知で会話を遮った。
いきなり声をあげたムウに一同は驚いて視線を合わせたが、
幸いそれを遮るものはいない。

「確かにシャカに技をかけられましたが・・・取り立てて何もありませんでした。」
嘘である。
体を辱められ、心を侵された。しかしそれを口にすることはムウのプライドが許さなかった。
ムウは立ち上がり、シャカに向き合うと言葉を継いだ。
「あなたは私に指一本触れなかった。そうですよね?シャカ」
「そうではあるが」

「サガ。お聞きのようにこれはシャカと私の問題です。今日はいささか悪ふざけが過ぎただけです。」
ムウは穏やかな笑みを浮かべてみせる。

「しかし技をかけた・・・とはどういうことだ?」
サガはなおも追求する。
「技・・・最初の天舞宝輪のことか」
ムウの気苦労など知る由もないシャカであった。

一同がどよめく。無理もない。

「シャカお前。天舞宝輪て」
ミロが呆れたような声をあげる。
「ムウだから大丈夫だと思ったのだ。」
シャカに悪びれた様子はない。
「その根拠は?」
カミュが尋ねる。
「ムウだからだ。」
シャカはきっぱりと言い放つ。
答えになっていないとか聞いていないとか、 そのようなことはもはや違う次元の問題のようだった。

たまらずムウが反論した。
「私だから何をしても許されるとでも思っているのですか!」
「そうだ。」
「・・・・・」
「私も君になら何をされても構わない。」
傍からは愛の言葉の応酬のようにも聞こえるが、この男の場合本気で洒落にならない。

「さらに言うなら、君だからちょうど小宇宙の釣り合いが取れ、私も識意下から生還できたのだ。」
憮然としたまなざしを向けるムウをシャカの閉じた瞳がとらえる。

「今日のことが許せないならいつでも私の首を取りにきたまえ。」
「望むところです。」
厳しい緊張が走る。仲が良いのか悪いのか。周囲は誰も立ち入ることはできない。
ムウは議長に向き直るといった。
「サガ。われわれの問題はこれで解決しました。 非戦闘時に小宇宙を使った罰を受けましょう。」
「それには及ばぬ。先に技をかけたのは私だ。」

譲り合っているのか、張り合っているのだか、すでに分からなくなっている二人であったが 、話の内容から、どうやらシャカが一方的にしかけたらしいことを察したサガは、 シャカに一週間の謹慎を申し付けた。ムウは考慮され三日だった。
その沙汰を全員が承認し、その場は幕となった。

帰り、一刻も早くこの場を去ろうとするムウにシャカは声をかけた。
「君も私の魂の奥底を見ただろう。あれが私の偽らぬ心だ。」
ムウはその言葉に一瞬足を止めたが、 それには答えず、付き添おうとしたサガの手を払い、出て行った。

とたん、待っていたかのように同僚達がシャカを取囲む。
「天舞宝輪をかけてどうしたのだ?」
「ムウの体の自由を奪い、理性を剥いだ。」
「・・ぶっ」
アイオリアが赤面する。
「一体何をやってたんだ!」
「生還できたとか言ってたな」
皆が口々にシャカを問い詰める。
やはりシャカとムウの尋常でない小宇宙の波動にはそれぞれ感じるところがあったに違いない。

「ムウの意識に同化した。」
「おいおい!」
デスマスクが情けない声を上げる。
「一体何故そんな真似を」
無口なシュラまでが驚いたようだ。

「ムウの心にいる男を見るためだ。」
「それは・・・そうとう抵抗されただろう。それより、よく二人とも生きていたな。」
責任を問い詰めることも忘れ、ただただ感心するサガ。

「それでその男とやらはいたのか。」
アフロディーテは肝心な問いを忘れない。
「居た。」
またどよめきが起こる。

「で・・どんな男だった」
サガは思わず身を乗り出して伺う。
「さすがに抵抗されてよくは見えなかったが、・・・少なくとも私は見たことのない男であった。」
「そうか、・・・それでは手のうちようがないな。」
我が事のように落胆するサガに代わってアフロディーテが尋ねる。
「具体的にはどんな?」

「金色の長い髪をしたやけに尊大そうな男だった。」

「・・・・・」
なんともいえぬ沈黙が周囲を漂った。

「私は君のそういうところが嫌いではないぞ。」
サガが微笑む。
「私はむしろそんな君が好きだ。」
アフロディーテ。
「俺もお前が好きだ。」
アイオリアの言葉にミロが頷く。
「お前は死んでも変わらんな。」
カミュも、無言のシュラも、
「目出度い奴!」
デスマスクも、
「俺はお前がうらやましいぞ。」
アルデバランも。
気付くと皆がシャカを取囲んで笑っている。
「一体なんなのだね、君達は。」

「そんなふうだからムウも君のことが、好きなのだろうな。」
アフロディーテの呟きに不機嫌そうなシャカの顔が輝いた。

「そうかね!?・・・君達もそう思うかね。私もそうだと思うのだ。」

「ごきげんよう、諸君。」
すっくと立ち上がるとシャカは足取りも軽く部屋を出ていった。


*       *        *



春の月が夜半の空に浮かぶ。


ムウは白羊宮の自室で、ゆっくりと記憶を咀嚼していた。

シャカの心・・
そこは一面の花畑であった。

周りは完全な闇、
空気の揺らぎすらない虚空。
深奥に巨大な大仏が見えた。
その掌で遊ぶ二人の童子。
一人はシャカ。
白い衣を翻し、金の髪をなびかせて笑う。
そしてもう一人、それは幼い日の自分であった。

戻れない日々。
戻れない心。

どこまでも清いシャカから
遠く離れてしまった自分・・・。

なにかがひどく苦しくて切なくて
ムウは一人泣いた。




月明かりはちょうど、白羊宮の階段に 尊大な男の影を落としたところであった。



終わり





後書きさせてください。


う〜ん、終わりです。とりあえずは。
ああいうシャカははたして清いといえるのか、とか
謹慎の意味がまったくわかってないとか
いろいろ突込みどころはありますが。
このあとどうなるかは皆さまのご想像にお任せします。

いや、なんだか四コマの人間関係までが変わってしまいそうで
いままで避けてました、シャカムウ。。書いてしまいました。
本当につたない文章に、コメントくださった方々、ありがとうございました。
このシャカムウについても複数の方が”アリ”、と仰ってくださって嬉しいです。
でも・・・やっぱりすれ違ってますかね。。

羊祭りのシャカムウチャットで「通常の人間の理解を超えた”関係の仕方”がある」と
どなたか仰ってましたが、全く同感です(笑)。
精神派攻撃を得意とするわけですからああいうこともありかなと。

十二宮の戦いぶりでは電波全開だったシャカ。
ハーデス編ではいささか異なりますが、しかしあれを読んで、
シャカは意外に皆に愛されてたんじゃないかと思いました。
彼は電波ながら、それゆえに聖域では可愛がられていたのかもしれないと。

あ、あとひとこと。ムウ様の心象風景があんなに阿鼻叫喚なのは
シャカと対比するためです。
ほんとはもっと違うはず・・・!

しかし・・・最後バレバレのオチですみません。
シャカの反応はあの、猫に鏡を見せると自分がわからず「フー!」と威嚇して
しまうのに似てるなあと思ってしまいました。

・・・ここまで読んでくださって、ありがとうございました(平伏)。

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