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祭最終日。 この言葉はわたしを狂わせる。 悩みといえばこれ以上平和な悩みもないと思うが 数日前からシャカが気になってしかたがない。 気をつけていたのに。 とてもとても気をつけていたのに。 …うかつにもチラと見てしまったのだ。 他所様の"シャカムウ"な愛の園を。 目の前でいちゃつかれたくらいで動じるような純情さなど もはや持ち合わせてはいないが、 シャカがにわかに気になり始めた。 いや、何と言うべきか… やはり気になる、の一言に尽きる。 だいたい朝からシャカムウ、シャカムウと これはいったい誰の陰謀なんだ? 罠か? 何をしても気が収まらず、 休業中のはずの某所から抜け出し、 わたしはひとまず双魚宮に向かった。 「…そういや」 アフロディーテは教えてくれた。 「祭りが終えたらシャカムウもどきもお終いらしいよ。 「何…だって?」 覚悟はしていたはずだった。 …けれど。 「会ってくれば?」 うろたえるわたしを見てアフロディーテは綺麗に笑んだ。 わたしは礼の言葉もそこそこに飛び出した。 残り時間はあと15分を切っていた。 紆余曲折あって一線を越えてしまったわたしたちだが 「友達に戻ろう」と幕を下ろしたのは自分だった。 なのに少し揺らされただけでこのザマだ。 …我ながら情けない限りだ。 しかしわたしの足はまっすぐに処女宮に向かっていた。 奥でシャカはいつものように座し瞑想していた。 呼びかけても返事はない。 自らシャツのボタンをすべて外し、 わたしはシャカの前に膝立ちになった。 「なんの真似だ」 シャカは目を開けるどころか眉ひとつ動かさない。 「今日は仏滅かね…」 「仏滅は明日だ」 喋りつづけるシャカの目の前で、わたしは髪をほどく。 「13日の金曜日か」 「それは昨日だ」 上衣をはだけてもシャカは動かない。 裸の肩を押すとシャカは座禅をくんだまま後方にゆっくりと倒れ わたしはその腹の上に馬乗りになった。 もうすでに鼓動が早いわたしに対してシャカは冷静だった。 「シャカ」 「何だね」 「抱いてくれ」 返事はなかった。 「…また一服盛られたのかね」 「違う」 「友情とやらはどうしたのだ」 「白羊宮に置いてきた」 「今からでも遅くない。帰りたまえ」 「嫌だ」 「……」 沈黙が苦しい。 我ながらあまりの愚行に眩暈すら覚える。 だが引き下がることはできなかった。 「…何故こんなことをするのかね」 シャカの声音は厳しかった。 「相手に不自由しているようには思えぬが」 その言葉のわずかな棘がいつになくこたえる。 「こういうのは好まない」 シャカの拒絶はあっけなくわたしの心を裂いた。 わたしは呆然としたままシャカの両肩から手を離した。 「すまない」 …君をさんざん裏切って、傷つけて、そのうえでわたしのわがままで 別れたというのに、いまさら君に触れたいなどと。 虫が良いにもほどがある。 「けれど…他にどうしたらいいか分からない」 シャカがおもむろに口を開いた。 「もう一度訊くが何故こんなことをするのかね」 「それは…」 と言いかけてわたしは言葉につまった。 答えなどは逆さにして振っても出てこない気がした。 混乱して自分の気持ちすら整理がつかない。 君は大切な友達だ。 わたしは君を裏切ってばかりだったけれど 君しかいないんだ。 それなのにまた、君の気持ちをふみにじった。 会えなくなると思ったらたまらなくなった。 君に触れたい。 …自分で逃げだしたのに もう苦しくてどうしたらいいか分からない。 君を失いたくないと思えば思うほど君が遠くなる。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。 結局君を傷つけているばかりじゃないか。 …駄目だ、駄目すぎる。 こんなのは…もう 「愛してるなんて言えない」 呟くと同時に涙が溢れた。 顔を上げるとシャカはいつのまにか瞳を開いてこちらを見ていた。 わたしはふと我にかえり、目をそらした。 今のは…。 失言にもほどがある。 「…笑わないのか」 シャカはそれには答えず、身を起こすとわたしの頬にはりつく髪を払った。 「結論からいうとさほど問題ではない」 「何…だと」 「たとえ君がわたしを愛せないとしても」 いつものような高慢そうな笑顔だったが いつもより優しい目をしている、ようにも見えた。 「わたしが君のぶんまで愛しているからかまわない」 「かまわないのか」 「慈悲あまねく神と仏の御名においてかまわないとも」 神仏は関係ないだろう、そう思ったが黙っていた。 それなりに落ち着いたのでシャカから降りようとしたそのとき 半身が引き寄せられた。 「どうしたらいいか分からないということだが」 シャカはわたしの涙を拭うと言った。 「先ほどのをそのまま続けたまえ」 時計はちょうど、真夜中を指したところだった。 ひとまずおしまい(祭終了) 懲りずに続き |