シャカが触れるたび体が熱を帯びる。

わたしは衣を全て剥ぎ取ると嬉しげに頭を出したシャカを口に含んだ。
息をつくことも忘れてそれを味わっていると、頭上に鋭い視線を感じる。

「友人にこんなことをするなど君はほんとうに堕ちたものだな」

いかにも的確な侮蔑の言葉が小気味良い。
わたしは思わず目を細めた。
どれほど自覚があるのかは知れないが、シャカはときたま心が凍るようなことを言う。
それが快いと自覚したのは最近になってからだった。


思いのほか早くシャカが果てた。
わたしは満足し安堵すら覚えたのに
シャカはわたしの技術が知らぬうちに向上したとわたしをなじった。

「どこで覚えてきたのかね」
「そんなこと忘れてしまった」
「君は…われわれが最後に肌を交わしたときのことは覚えてるかね」

…夢中でシャカの名を呼んで、背に足を絡め爪を立てて…
わたしはその記憶の断片を他人事のように思い出した。

はたして今さらあのように無心に愛しあうことなどできるのだろうか。

「…できることなら忘れたい」
わたしは正直に答えた。
「…そうか…」
シャカはうなだれた。
いつも高圧的なくせにこんなときにさみしげなそぶりを見せる。
計算づくでやっていたとしたら許し難いほど狡猾だ。

わたしはシャカの視界に入るように伸びをしながらその膝のあたりに
身を投げた。
見上げるとシャカの周りはまた煌きはじめた。
…そのキラキラはわたしの思考を奪うから苦手だったが
どんよりされるよりはましというものだ。

シャカはわたしの目の前に腕を伸ばし二本の指を立てた。
わたしは顔を傾け軽く歯を立てながらそれに口付けた。
綺麗に骨の浮いた節々と先端の円弧を丹念に舌で辿る。

わたしはシャカの細く長い指が好きだった。
だからその指にならば何をされても腹は立たない。
爪は身なりに頓着しないシャカが唯一最低限手入れする箇所だった。
少しだけ伸びていたがその爪がすべすべとしていたのが嬉しくて
ついシャカに制されるまで舌を這わせてしまった。

指は口腔で暴れたと思うと喉元、首筋、鳩尾をまっすぐに落ち、
臍にしばらく留まった後、腰骨をたどりながら侵入してきた。
指はなかで自由に動き回り、わたしをさんざんに翻弄したが
最後まではどうしても許してもらえない。
わたしはいらつくあまりシャカの首筋や顔を齧った。

「我慢がならないようだな」
シャカが押し入っていたとき、わたしの思考は完全に停止した。
「…く…っ…凄…い…」
思わず口をついて出てしまった言葉にシャカは薄く笑う。
無論シャカの器官がなにか特別というわけではない。
しかしそのなかに在る、というだけで、脳裏まで痺れるような快楽が走る。


電波か?電波なのか?
何故こうも…

焦りすら覚えるわたしに対し、シャカは己をぴったりと埋め込むと
微動だにしなかった。

青い瞳がじっとわたしを見ている。
その色は深く澄んでジャミールの空のような聖域の海のような
果てのないもののように思えた。

もっともその目を見るときにはろくなことがないのだが…。
今もやはり不審なほど輝いている。

シャカは体勢を整えると大きく息を吐いた。
耐久戦か、とわたしも身構える。
わたしの飢えを知っての復讐だとしたら
正直言ってものすごく不利だ。

シャカはまだ動かない。
その時間は長いのか、短いのかすらも良く分からない。
神経の全てが内側の奥に集まって指先に力が入らなくなる
わたしの意識の限界が訪れるたびにシャカはゆっくりと
ごくごくゆっくりとなかを往来した。
それはこちらの気の狂うような遅さだった。
そしてまた沈黙。
シャカも硬度を失わない程度には
快楽を得ているはずだが、その表情は固いままだ。


ふと不吉な言葉が脳裏をよぎった。
「千日戦争」
冗談じゃない、死ぬ。
比喩ではなく本当に死んでしまいそうだ。

「わたしは」
その叫びが聞こえたのか、シャカが口を開いた。
「わたしはこのまま死んでもよい」
「駄目だろっ…う」
どこかに少しでも余計な力を入れると達しそうになる。
実にギリギリのところにシャカはぴたりと身を寄せていた。

もどかしくて涙が出る。
せめて動けたらと思うが腰はしっかりと押さえられている。
わたしは内奥の筋肉を動かしてシャカを促してみた。
しかしその感覚はあっけなく己に跳ね返り
かえって耐え難さが増すばかりだった。


わたしの無駄な足掻きにシャカは冷笑を浮かべた。
「貪ることまるで餓鬼のようだ」
「黙…っうう」
「それほどに喰らいたいなら乞いたまえ」
自分からしかけてはいたものの、しかしそれも本意ではなかった。


「く…」
もはや息をするのも苦しい。
シャカは笑うと身をかがめ、わたしの胸をなぶった。
「や…ああっあっあっあああ」
数珠珠を繰るかのような淡々とした愛撫であるのに声が止まらない。
内側が反射的に締めつけられ、あとからあとから湧き上がる快楽が
螺旋のように昂ぶっては弾け散る。

気がつくと汗と体液にまみれた身を捩りながら必死で叫んでいた。
「もう…っうう…だ……っ…あああっ」
言葉も嬌声にかき消される。
「すさまじいな」
シャカはあらためてわたしを見た。
溺れる人間を高みから見下ろすような眼差しだ。
やはりぞくりとする。

すべてなにもかもその青で蹂躙してほしい。
つまらない誇りもこだわりも、過去も、なにもかも。

君にこんなあさましい姿を見せるのが何より怖かったけれど
わたしはもしかしたらこうして君の眩しさに
晒されたかったのかもしれない。

わからない。

「君はそんなふうに乱れるのかね」
ご覧のとおりですとしか言いようがないのだが。
「けしからん」
シャカが呟く。
「断じて許せん。君…」
わたしはようやく隙ができたシャカの唇を奪うと必死で舌を絡ませた。

彼の頭を抱き何度も何度も指を絡ませても
彼の長い髪はさらさと零れ落ちる。
体は背を走る快楽に完全に支配され、思うように動かない。
頭の奥がかすみ、意識が薄れてゆく。
「ムウ」
そう思った途端に強い力で両腕を掴まれた。
「君が好きだ」
くどいようだがこんなときにそんなことを言うのは
はっきり言って卑怯以外の何ものでもない。
「…シ…ああっ」
返事を待たずシャカは動きはじめた。
激しく揺すられわたしは思わずシャカの背にしがみついた。
やみくもに突き上げられて体がバラバラになりそうだった。
わたしたちは何度も互いの名を呼んだ。
そして…



…そのあとの記憶がない。






気がつくとシャカがそばにいて、
わたしはひたすら照れくさく、顔を伏せた。
シャカの目が見られなかった。
「…やられた」
「何だね」
「君はわたしの心をいつも強引にさらってゆく」
それ以上適当な言葉が見つからない。
「人聞きが悪いな」
シャカはいつものシャカだった。

「わたしはただ、取り戻したのだよ」
シャカはいつもシャカでもうシャカでしかない。

「側にいてくれ。わたしの望みはそれだけだ」

しかし珍しく真面目な顔をしていた。
「シャカ…」
答えようとした途端、目の前が白くなった。





…夢か

どうりで支離滅裂だったはずだ…。

目蓋が泣きはらしたかのように腫れている。
「大丈夫かい」
アフロディーテだ。ここは双魚宮か…。
「わたしは…」
全身の疲労と筋肉痛と関節痛が半端ではない。
「君倒れたんだよ、昨日」
「…え?」
「処女宮で。ほらさっそく見舞いがきたよ」
扉の向こうにはなるほど処女宮の主がいる。

日付はとうに変わっていた。
「ごゆっくり」
呆然とするわたしをおいてアフロディーテは部屋を出て行った。








終・・・りませんでした→続

戻る





かなりおかしな話で恐縮です。
しかも14日深夜下書きのまま載せてしまい
非常にお見苦しい状態をさらしました。
ギリギリアウトでスミマセン。

mino様、瀬川様、ほんとうにありがとうございました。
…楽しかったです。楽しすぎて壊れました。
毎度ながら祭りは洗脳だと思います…。
とくに絵茶…

そしてここまで読んでくださった皆様もにさらなる感謝を!
08年6月
               油すま吉拝

サイトトップへ