|
サガムウ前提デスマスクムウです。一応R18です。 だらだらしてます…大丈夫であればどうぞ。 la terra desolata 春の雨は土の匂いがする。 雨雲は牧草を撫でるほどに低い。 オリーブの若葉が女の髪のようにちぢれて垂れ下がり、 花の香りに混じって腐りかけた躯の匂いが雨に流されてゆく。 久しぶりの故郷だ。 なだらかな丘に囲まれた山あいのさびれた村。 その外れに俺は小さなねぐらを持っていた。 そこで俺は静かにのんびり休暇を過ごしている、はずだった。 「…チッ」 俺は舌打ちとともに読みさしのエリオットを放り出した。 一ヶ月はやはり長すぎたか。 季節も悪かったがタイミングはもっと悪かった。 休みも半ばだというのに気になってしかたがない。 …あいつ…大丈夫なんだろうか 奴とサガとのゴタゴタに巻き込まれた俺は、 その骨折りと称して休みを取り付けたわけだが。 半端に関わったのがまずかった。 …結局あれでよかったのだろうか。 あのとき、俺がムウを止めていれば。 余計なこととは分かっているが、考えずにはおれないのは性分だ。 俺は「家」の抗争をいくつも見てきたが、 仇同士が上手くいったためしなどなかった。 一番の不安要因はサガだ。 あの男、憎らしいほどに完璧な野郎のくせに 駄目なところはとことん駄目なうえに、アブないからな…。 俺は過去の面倒を思い出し頭を抱える。 …だが。 ムウが奴に惚れるのはよくわかる。 どうせ今日の風呂とムウの尻のことくらいしか考えていないだろうに 眉間に皺よせる様子はまるで憂国の王のようだ。 あの嫌味なほど綺麗な偽善者笑い。 圧倒的な強さ。 昔から敵わねえ、と思ってきた。 年の差のように、いつまでも越えられない相手だった。 それは聖域の「正義」が鞍替えした今も同じだ。 だからムウが組み敷かれるのも当然と思ってきたし 現に今だって… 俺はうっかり想像してしまって思考を止めた。 …やけになまなましくてげんなりするぜ。 頭を冷やそうと外に出た。 雨はいつのまにか霧のように細かくなっていた。 裏手の丘からは海が見える。 山の向こうはすでに晴れていて、雲間から光がさし始めていた。 白い水平線には帆を降ろした船がじっと停まっている。 その様子をぼんやり見つめていると、空が桜色に染まりはじめた。 傾いた日に照らされた海は青とも緑ともつかない色に輝いて、 まるであいつの瞳のようだ。 果てのない哀しみを秘めて静かに光をたたえている。 淡い紫に染まる雲はちょうどあの髪の・・・ 「…何考えてんだ俺は」 俺は自分に呆れた。 だが笑いとばす気力はなかった。 深い藍の空と海に日が沈みゆくころには俺はもうたまらなくなっていた。 * * * 「いったい何事ですか?キャンサーが海にでも帰りましたか?」 「…うるせえ」 俺は早速後悔した。 緊急の呼び出しに応じた奴は明らかに不機嫌で、言葉も態度もとげとげしかった。 いや、こいつはもとからこういう奴だった。 優しげなのは顔だけだ。 が、もうそれでもよかった。 「顔…見せてくれ」 日の落ちた部屋で、俺はそう言って歩を詰めた。 「…は?」 案の定、心配そうにこちらを見たムウだが、俺が背に手を回すと、 そういうことか、と了解したようだった。 しかし微妙に腰が逃げている。 「…同僚の、しかも男で済ますのですか」 「ああ」 俺が答えるとムウは呆れたようにため息をついて抵抗を止めた。 ったくアホか。吐き出すだけなら誰がこんな面倒を…と思ったが黙っていた。 俺の手が腰に回ってもムウは無言だ。 …こいつは、このまま俺を拒まない…いや拒めないだろう。 なにしろサガのことで「借り」があるからな。 ひとしきり、俺の蹂躙に耐えて何事もなかったかのように帰るだろう。 それが俺にはひどく耐え難かった。 抵抗されたらそれはそれで嫌なくせに勝手なものだ。 俺はいったんムウから離れ、ベッドに腰をかけた。 ムウはその隣に立ったままだ。 「サガとはどうなんだ」 沈黙が重く、しかしそれ以外話すこともなかった。 「相変わらずです」 ムウは淡々と答える。 考えてみればここに来れたということはつまり今夜は外出できたのか。 「帰ってもいいぜ」 だがムウは軽く肩をすくめて答えた。 「泊まってこい、と言われています」 …ああ、サガはそういう男だ。 寛容を履き違えて要らん苦労を背負う。 「いい趣味だよな」 俺が皮肉るとムウはうつむいて笑った。 「苦しみたいんでしょう。ひとりで」 疲れて投げやりな風情が妙にそそる。 俺は急に昂ぶった熱を逃がそうと長く息を吐いた。 ムウはそんな俺のほうを向くと、 「さっさと終わらせて休みましょう」 そう言ってさらりと髪の紐を解き、寝台にどかっと腰を下ろした。 「おまえもうちょっとこう…」 無粋にもほどがあるぜ。 呆れながらも俺はムウから目が離せない。 ムウは無言で靴を脱ぎ、ショールを外し枕もとに置いた。 いかにもこんなことには慣れているといった風だったが、その先が続かない。 …安っぽい芝居はよせよ。似合わねえ。 こんなことは嫌なんだろ?好きなんだろ?サガが… よほどそう言ってやろうかと思ったが思いとどまった。 今言っちゃあこいつが可哀想だ。 …って俺もバカだよな。 気付かないふりで俺も芝居に乗る。 「誘うにしてもその態度はないだろよ。じらさないでください、くらい言ってみろよ」 「じらないでください。時間の無駄です」 「…おまえねえ」 一言多いのも、照れ隠しのように思えてしまうから末期だ。 …まったく正気の沙汰じゃねえ… こいつに関しては俺は自分のポリシーに反してばかりだ。 一つ。 酔った女は抱かない。 まず早々にこれを破った。 そこからケチがついたようなもんだ。 二つ。 他人の女は抱かない。 話は奪ってからだ。 三つ。 女に惚れない。 …全滅じゃないか。 女じゃないからかろうじていいか、悪いのか。 いや悪いに決まってるだろう。 何を血迷ってるんだ。 俺はひとつため息をつくと、すっかり暗くなった部屋に明かりをともした。 蝋燭の、薄いオレンジ色の光に照らされたムウは美しかった。 乾ききっていた俺の心まで濡れるようだ。 俺はただ呆然とその顔を見つめていた。 心はおののくように揺れているのに 言葉が何ひとつ出てこない。 そんなことすら、無性に口惜しかった。 …ああ。 なんてこった。 もう何もかも捨てちまいたいような…。 俺はしばらく動けなかった。 しかし当のムウは俺の視線に居心地悪そうで 傍らの蝋燭に目をやると抑揚のない声で言った。 「もう少し長さがあったほうが…」 「ん?」 「いずれ、使うのでしたら」 俺はその言葉を理解するのに数秒かかった。 「…おまえ…俺が蝋燭垂らしたり挿れたりするわけないだろ!?」 「そうですか」 ムウはとくに動揺した様子もなく、目を伏せた。 光に揺れて睫毛の影が長く伸びる。 少し開いた唇は薄く色づいている。 そうだそんなふうに黙っていろ。 俺はとりあえずその顔を… 「見てるだけでいい…」 「視姦ですか?自慰でもします?」 「いいから黙ってろほんとに黙ってろ!」 信じ難い言葉にくらくらする。 ムウの剥き出しになった白い足首がちらと視界に入る。 自慰か…見てみたい気もしないでもない。いや待て。 「サガにそんなことさせられてんのか」 俺は思わず尋ねていた。 「いつもではありませんが、サガに見られていると …たまらなくなって自分でします」 訊くんじゃなかったという気持とさすがに少しはにかむムウの様子が 俺の理性をぐらぐらと壊す。 「何やってんだよおまえらは…」 「少し普通じゃないのは分かってますが」 少しどころじゃあないんだが。 「わたしも嫌いではないので」 「ふん…そうか」 そう言いはしても、ムウには好色そうな様子はない。 好きなのは行為じゃなくてサガだろう。 「じゃ遠慮なく楽しませてもらうぜ」 俺は次第に苦くなる心をふりきるように喉で笑うとムウを組み敷いた。 * * * ムウは大人しく目を閉じる。 下から見上げると長い睫毛が弧を描いて丸い頬も唇もまるで天使のようだ。 よくもこんな綺麗な顔が殴れたもんだなと俺は自嘲した。 すべすべとした頬に細かく口付けを落としてゆく。 白い、乳のように白い肌だ。 跡をつけることすら躊躇う。 こんな柔らかい肌を傷つけようなんざ狂ってるぜ。 耳の後ろに口付けるとムウの身体が強張った。 そこからゆっくりと首筋に移動する。 女の首のように優しいうなじ。 触れるたびに肩に力が篭るのが分かる。 鎖骨に達するころには肌がほんのりと赤みを帯び、 伏せた睫毛が細かく震えていた。 反応が硬いのは素面だからじゃないだろう。 この生娘のような初々しさいはなんだよ畜生あいつの好みか? …そうだよな、好きでもない男にいいようにされて楽しいはずもない、か。 こんな状態でもこいつは、抱いてしまえば良い声で鳴くのかもしれないが 俺は飢えているくせに急にはそんな気にはなれなかった。 溢れそうな熱をせきとめるように、ゆっくりと唇を押し当ててはそっと離し ムウの体が内側からじわじわと温まるの待った。 鎖骨から肩口へと、唇を這わせる。 小気味いい弾力のある、しかし少年のようにしなやかな筋肉。 俺はそのなだらかな隆起を辿り、あたたかい腋下に鼻を埋めた。 薄く柔らかい毛先はわずかに汗の匂いがする。 ムウは嫌そうだったが俺は構わずしばらくそこを楽しんだ。 腋から血管をなぞるように腕を下り、肘、指先、爪先へと口付けた。 ムウの呼吸がしだいに浅くなってゆく。 体が熱を帯びるに従って白い肌に血管が鮮やかに浮かび上がり 綺麗な模様を描いている。 薄い皮膚をきつく吸い上げると、まるで熟した実がはぜるように体が跳ねる。 ムウは喘ぎを堪えているようだった。 しっとりと汗で濡れた肌が掌に吸い付く。 中はもうすでに充分に柔らかくほぐれているはずだ。 俺はムウをうつぶせにするとうなじから腰までを何度も撫でた。 背中の、いつも髪の毛で隠れているあたりもこいつは弱いんだった。 腰骨のあたりのおそらく消し忘れた痣に触れると分かりやすくビクリとする。 だが今は深い追いはしない。 尻と、内腿と、膝裏と、俺は執拗に舌を這わせた。 ムウ自身はもうその体と同じように限界まで強張り、震わせている。 俺は背後からもう一度ムウの首筋に口付けた。 さっきより明らかに温かく、とくとくと脈を打っている。 俺は赤く充血した耳たぶに軽く歯を立てた。 「…あっ」 大きな声が漏れ、ムウが顔を背ける。 背の敏感なところをまさぐり耳をねぶるとムウの目に涙が浮ぶ。 「ああっあいや…あ」 舐めあげながら甘く噛むとついに堪えきれないといった様子で続けざまに声をあげた。 同時に俺はムウの円弧を描く尻の谷間に掌を這わせた。 男にしては丸い尻たぶと脚の付け根の隙間から尻の窪みまでを楽しむ。 「…は……あ…ああ」 触れるか触れないか、その曲線を楽しんでいるだけだというのに ムウは泣き出しそうな風情だ。 「この程度で降参かよ」 「く…」 俺は溢れそうなムウにはわざと触れずにぎりぎりを撫でる。 「ひっ…や…」 腋下から胸に舌を這わせるとムウは悲鳴のような声をあげた。 「い…ああああっ」 砂糖菓子のように薄桃色の乳首なそれはすでに硬く、舌で舐めあげると ムウは腰をひくつかせながら女のようにイッた。 「だらしねえな」 ムウはいまさらのように悔しげに唇を噛んだが、俺がまたそこを責めると すぐに陥ち、そしてどこまでも落ちていった。 止めようとあがいてはまたあっけなく流される。 まったくあきれるほど慣らされた体だ。 だが俺はこの体が…こいつがいとおしくてならない。 馬鹿なことを口走る代わりに俺はムウの唇をふさいだ。 こんなときだからか、ムウは俺の舌を拒まない。 そればかりか自分から舌を絡めてくる。 もう欲しくてたまらないのだろう。 俺はサイドテーブルに手を伸ばしオイルに指を浸すと ムウの咥内を犯しながらゆっくりと挿しいれた。 「ん…んん…っ」 入り口はきつかったがムウの中は俺の太い指を次々とくわえこんだ。 指の腹で撫で、指先で叩き、根元からかき回すとムウの中は面白いように痙攣する。 適度に休めては頃合を見て責め倒し、掬い上げてはまた、つき落とす。 焦らすぶんには男も女も大して変わらない。 もう痛いだろうくらいに張りつめているムウを見ると こんな弱点をさらす男は不利だよな。 俺はムウの腰を抱え尻だけを高く上げた。 指を抜いたばかりのそこはもの欲しそうにひくついている。 「ひでえな。まるでさかりのついたメス猫だ」 「く…」 からかうように押し広げるとムウが短くうめく。 「ほらよ」 「うああっ」 尻たぶをぎゅうとつかむと俺は一気に奥までねじこんだ。 中は熱くねばつくようだ。 俺はその熱に酔いしれる。 「そんなに締め付けんなよ」 イっちまうだろうが。 「っ……く」 ムウは必死で喘ぎを堪えていたが、飢えた肉は誘うように絡みついてくる。 形成は早くも不利だ。 俺はオイルを右手にたっぷりとると後ろからムウを握り締めた。 「ひあっあ…あっ…ああああっ」 指先で音をたててしごいてはゆっくりと掌で緩めると ムウの腰が小刻みに震えだす。 「う……あっ…ああ」 すでにかすれはじめた声もたまらない。 ムウは足先まで引きつったように強張らせては敷布を摺り寄せたが、 その痙攣の幅が、どんどん狭くなってくる。 前を握り締めながらゆっくりと抜き差しを始めるとムウがいよいよ暴れ出した。 「ひ…やあ…っ…い…い…や」 俺は左腕で腰を押さえながら、浅く、深く急所を責めた。 「もう…だ……うあっ…ああああっ」 俺が数回つきあげるとムウはあっさりと果てた。 限界だった俺も遠慮なく吐き出す。 ムウはうつぶせたまま、しばらく肩で荒く息を吐いていた。 「なんてザマだよ」 俺のほうは息を整えるまでには完全に回復していた。 「まだいけるな」 ムウは無言だが否定はしない。 「来いよ」 俺はムウを腹の上にまたがらせた。 腹に当たる太ももの柔らかい筋肉が心地いい。 ムウは俺を見つめたまま、ゆっくりと腰をおとす。 「…ふ……っくあっ」 その瞬間の顔といったらなかった。 まったく淫乱なんだか生真面目なんだかわからない。 腰を浮かすたびにオイルと精液とが淫猥な音を立て、ムウの顔が耳まで赤く染まった。 それでも素直に動き始めるあたり、よく飼いならされている。 俺は両手を頭の後ろに回してその様子を見物した。 「うあっ」 ふいに腰を入れてやるとムウがのけぞる。 その白い喉を眺めならがらぎりぎりのところにグラインドさせると ムウは切なそうに呻く。 「クク…本当に好き者だな」 俺はムウの両手首を掴むと一気に責め立てた。 「あっあっあああっつだ…だ…めっ…く…」 俺の胸に何度目かの白濁が散る。 ほかの男の匂いが不快じゃないなんて俺もやきがまわったな。 「俺はまだだぜ」 そのまま身を起こすとムウの肩を抱き寄せた。 腹と胸とが擦れあう。 わずかな隙間さえもどかしく俺はムウの腰を何度も押さえつけた。 ムウの早い鼓動がじかに胸に響く。 「んっううっ…う」 浅く呼吸をする唇をふさぎ、そのままゆっくりと喰らいながら串刺しにする。 ムウは苦しそうに顔をゆがめながらも素直に俺の舌を追ってきた。 それだけで俺はイってしまいそうだ。 下腹から奥まで深く突き上げる。 それがよほどたまらないのか、ムウの指に痛いくらい力が篭る。 …ムウの手が俺の背に… そう自覚したとたん頭が真っ白になった。 俺たちはつながったまま倒れこんだ。 ムウは腕のなかだ。 白濁とオイルとでぐちゃぐちゃになったが それでも可愛い顔してやがる。 汗にまみれた額にそっと口付けるとムウが驚いたように俺を見る。 大きな瞳がかすかに揺れて…俺はあらためて心打ちぬかれた。 決定的な瞬間というのはあるものだ。 こいつはいつか俺を裏切るだろうという思いがちらと頭をかすめたが、 そのときはそのときだ。 一瞬でもいい、この瞳に俺しか映したくないと思った。 俺はムウを抱いた腕に力を込めた。 どう思われてもかまわねえ。 言っちまうか。 「デスマスク」 ムウが先に口を開いた。 「何だよ」 何でも聞いてやるよ。 「そんなに優しくしないでください」 ムウはまるで叱られた子どものように力なく呟いた。 「何でだよ」 俺は軽い気持で訊いてしまった。 「あなたのことを好きになったら困ります」 「………」 油断していたせいで直撃だった。 …手遅れだぜ馬鹿野郎。 眩暈がする。 何か胸に詰まったかのように息が苦しい。 「どうしました?」 おまえのせいだちくしょう。 「……くそ」 情けなく震える俺の背をさすると、 ムウはまるで赤子をあやすかのように俺の頭を抱いた。 …男が前後不覚に陥るなんて日常茶飯事なんだろう。 その手馴れたようすに俺の心は急に覚めていった。 「…馬鹿言え」 「あっ」 俺はムウを乱暴に引き倒した。 脚をつかまれたときのかすかに安堵したような目。 俺は自分の勘のよさを呪った。 「俺を誰だと思ってんだ」 肩を敷布に押し付けムウの腰を高く上げると オイルを入り口にを垂らし、そのままそこに瓶を押しこんだ。 手首ほどの太さの緑色のガラスが白い尻に飲み込まれてゆく。 「っは…」 半分ほど入っていた中身は音もなく空になった。 「望み通りにしてやったぜ」 限界まで押し開かれ深くえぐられたムウは声をあげることもできず、 浅く息を吐いて小刻みに体を震わせている。 俺は苦しげに喘ぐムウの手をとるとその瓶を握らせた。 「自分でしろよ」 ムウは俺の顔を見た。 驚いても遅いんだよ。 しかしムウは震える指で器用にも瓶の底をつかむとゆっくりと動かし始めた。 「あ……ふ…くうっ」 絡めた白い指先から迸ったオイルが次々と零れ落ちる。 無機質な筒体はそれでも着実にムウを追い込んでいるようだ。 苦痛に歪んでいたムウの頬がしだいに上気しはじめている。 「驚いたぜ。何でもいいんだな」 「違…うああっ」 オイルでぬめった指で胸をなぶるとムウは泣き叫ぶような声を上げた。 止まりがちなムウの手ごと瓶を掴んで加勢をすると ムウは憑かれたように激しくかぶりをふった。 「い…や…いや…ああっ」 今にもイきそうなくせに。 「何が嫌なんだよ」 ムウがすがるような目で俺を見て言った。 「…これ…じゃ…嫌」 もう俺はたまらず瓶を抜くとムウを犯した。 「い……ああああっ」 中はドロドロに滑り俺を絞るように締めあげる。 狂っちまいそうだ。 「あ…ああ…い…い」 「く…出すぞ…」 俺はめちゃくちゃに突いてぶちまけた。 達した後もムウはしばらく嗚咽していた。 俺はムウに背を向けて横になった。 泣きたいのは俺のほうだぜ畜生。 だが。 これでよかったんだよな。 * * * 気付かないうちに少し眠っていたらしい。 どこか明るい空の下で 俺はムウと結ばれる夢を見た。 無駄と知りながらもういちど目を閉じる。 その拍子に顔にさらりと髪がかかった。 見上げるとムウが大きな瞳で俺を見ていた。 俺は慌てて目をそらす。 「まだ居たのかよ」 「…デスマスク…」 「とっとと帰れよ。サガが待ってるだろ」 「あなたは大丈夫ですか?」 大丈夫なわけないだろ馬鹿。 「ああ。せいせいしたぜ」 俺は無理矢理体を起こした。 「良かった。少しは役に立つのですね」 「何が」 「この体がです」 「…何を言ってんのおまえ」 俺はムウの感情を殺ぎ落としたような横顔に不安になった。 心と体を切り離しでもしないとあいつの相手はつとまらないのかもしれないが。 それにしても、だ。 「ヤケになるなよ」 「………」 「そういうところがサガに似てきたぜ」 「それは…良くないですね」 ようやくムウが笑った。 ほっとしたのもつかの間だ。 「時々分からなくなるのですよ」 笑いながらムウは独り言のようにつぶやいた。 「サガと…このままで良いのかと」 なんでこのタイミングでよりにもよって俺にその話。 「これ以上あの人を苦しめるのであればもう…」 「馬鹿言え」 心にもないこと言うなよ。 「どっちにしろおまえの勝手だがな」 よりにもよってなんでこいつ、という人間に限って惚れるんだよな。 「サガの性格からしておまえがいなくてもいてもどのみち苦しむ。 別れたら別れたことを一生引きずるような男だぞ」 …サガの行動がそこまで読める俺ってどうよ。 「やはり無駄…ですか」 ムウは目にいっぱいに涙を浮かべて、しかしいつもの真顔で問う。 「怒るぞ。おまえ、俺がおまえらにどれだけ騒がされたと思ってやがる」 俺は押さえていた苛立ちをぶつけた。 ムウの目から涙が一筋零れる。 ひとしきり静かに涙したあと、ムウはおもむろにこちらを向いた。 「デスマスク」 「なんだよ」 「ありがとう」 ムウは少し困ったような顔のまま笑った。 ど…動悸が、眩暈がするほど可愛い。 俺は目をそらすように奴にタオルを探して奴に投げた。 「風呂に入っていけよ。羊のフライになっちまうぞ」 素揚げできるほど俺たちはオイルでベトベトだった。 「ところで」 俺はムウに室内履きを貸し、シーツの始末をどうしようか考えあぐねていると ムウが振り返って言った。 「あなたはいつもそうやって心を隠しますよね」 「…何の話だ」 あたりまえだ馬鹿。 「とくに今日は様子が変です」 「どうでもいいだろ。…それより風呂に入っていけよ」 すぐに帰るな。というかそのまま帰るな。 もう少しだけ居てくれ。 ムウが風呂から俺を呼ぶ。 「石鹸はどこですか」 髪がぴたりと張り付いて肌がほの赤く睫毛は色が濃くて顔のつくりが際立つ。 濡れたこいつの姿に我慢できる男なんているんだろうか。 俺は食い入るように見た。 ムウも俺を改めて見ている。 俺たちは見詰め合った…ように思えたのは気のせいだった。 ムウはオイルまみれの俺を見て 「蟹のフライ」 とつぶやくと 「…お腹がすきました」 といいやがった。 「そのまえに石鹸だろ…洗ってやるよ」 俺は石鹸と一緒に浴室に入り込むついでに 泡にまみれてもう一回犯ってしまった。 こいつに暴れられたら風呂が壊れるなと思ったが、 虫の居所が良かったのか、単に腹が空いていたのか、 ムウはされるがままになっていた。 一時間後、俺たちは何事もなかったかのように食事していた。 カラスミとウニとレモンのパスタにカルパッチョ。ワインはコロンバの白。 カポナータと牛肉のグリルにはサラパルータの赤。 肉だけは仕入れておいたが、あとは冷蔵庫の中のものだ。 結構な量だったが俺たちはぺろりとたいらげた。 リコッタチーズのパイを焼きながらコーヒーを淹れるのを ムウがソファで待っている。 幸せすぎるひとときだ。 こんな瑣末なことに俺は苦しいほど湧き立った。 「美しい詩ですが」 部屋に入るとムウがどこかからエリオットを見つけ出していた。 「こんなものを読んでるからおかしくなるんですよ」 「おまえ勝手にな…」 「たしかに一度滅びたものを蘇らせるのは残酷です」 ムウは他人事のように言うとコーヒーをすする。 「そうだな」 俺たちは再びこうして生きているわけだが。 心がひび割れたままじゃあ、苦しくてかなわない。 …荒れた地はいっそ荒れたままであったほうが良かったのかもしれない。 俺はそのすすけた表紙をぼんやりと見た。 「でも、大変なんですよね」 「へ?」 「直すほうは」 手際よくパイを口に運んでいるこの男は夕べの面影もない。 「…ああ」 俺に縋って泣いていたなど嘘のようだ。 「ヤケにならにようにします」 ムウはぺろりとたいらげると満足げにコーヒーをすすり 俺に目を細めてみせた。 とろけるような笑みだ。 俺は改めてサガに妬いた。 「…賢明だな」 俺はそう言うのがやっとだった。 * * * 俺たちは村はずれの岬まで歩いた。 うす曇りの空の下、時折細かい雨がハラハラと落ちる。 俺とムウは海を見下ろす丘に少し佇む。 鳥の鳴き声のほかは何も聞こえない。 静かだ。 実際は一晩しか経っていないのに もうずっと数ヶ月もここでこうしていたような錯覚に陥る。 白い光に滲んで溶けてしまいそうなムウの横顔を 俺は夢中で追った。 「では」 ムウが岬の丘に立つ。 「お疲れさまでした」 そう言って背を向けたムウが くるりと振り返ったと思うと俺のすぐ目の前にいた。 そしてありえないことに俺に口付けていた。 軽く、触れるだけのキス。 こいつからこんなことをするなど初めてだった。 「お…驚かすなよ」 文字通り心臓が止まりかけたぜ。 「失礼」 「何のつもりだ」 「…なんとなく」 そうつぶやくとまた生真面目な顔で軽く手を振って、 彼方に消えていった。 「俺も…帰るか」 意外なほど素直に結論が出た。 それが妥当かどうかは別として。 「好きになったら困る」などと言ったが。 困る程度には気になるということなのか。 「…俺は本当に馬鹿だな」 だがもうそれでいい。 俺は足取り軽く小屋に戻る。 ベッドはしばらく使いものにならないし、 食料も尽きた。 荷物をまとめて外に出ると、雨はすっかり上がっていた。 終 |