※黒サガ×ムウ前提の双子ムウ。完全別軸、殺伐(暴力)系描写あり注意。R18。





"You lie"


…身体が動かない。
ムウは反射的に周囲の小宇宙を探った。
敵はいないようだ。体の下には硬い寝台の感覚がある。そう広くはない空間だ。明かり取りの窓もない薄暗い部屋で、わずかに人の往来の声が聞こえる。少なくともここは聖域ではない。
頭の中は霞がかかったようにぼんやりとし、身体の芯がしびれるようにうずく。技をかけられたことは明らかだった。テレキネシスも封じられている。
自分にここまでのことができる人間は限られていた。


昨夜、カノンに誘われて、街の酒場に行ったことまでは覚えている。それほど飲んだつもりはないが、記憶は不確かだ。
彼が兄サガとムウとの関係をひややかに見ていることは分かっていた。カノンとは何かぎくしゃくとしていたから、誘われたとき迷いはしたものの、ここ2週間ほどサガとは会えずにいたムウは、その近況が知れるかと期待したのだ。


明かりがついた。どうやらどこかの安宿のようだった。 表れた人影はやはりカノンだった。夕べの服とは違い、なぜかスーツを着ている。その青い生地には見覚えがあった。サガのものだ。弟はベストは着ず、タイもせず、シャツは襟元をくつろげている。


「…ふん、オレの言葉なんか信用するからだ」
カノンはムウを見下ろすと言った。
「しばらく動けないぜ…」
「何…のつもりです」
カノンはそれには答えず、やおらムウの脇腹に手を差しいれた。
「やめ…」
何の前触れもなく急所をまさぐられ反射的に背が反る。その反応を観察されていると知り、ムウは努めて平静を装った。
「やめなさい」
「そんなこと言って、…本当は欲しいんだろ?」
そういいながらもカノン自身は欲望にかられている様子はない。
だがその瞳は何か思いつめたような、それでいて冷たい光りを宿している。
ムウの視線に気づくとカノンは整った顔をわざとらしく歪め、口元に狡猾そうな笑みを浮かべた。

カノンはムウに馬乗りになるとムウのジャケットをはぎ、自分も上着を乱暴に脱ぎ捨てる。
シャツの左腕にGSの刺繍が見えた。カフスが面倒だったのか、袖はめくりあげている。この男はおそらく、靴の先まで、兄のものをあえて奪ってきたのだろう。
ムウの顔の横に大きな手が付かれ、長い指や腱が綺麗に浮かぶ力強い前腕が視界に入る。しかしその腕は、サガであれば一つずつ丁寧に外すボタンフライをバリバリと開いて押し下げ、ムウのジーンズを下着ごと丸めて床に捨てた。

シャツだけとなった獲物を抱え込むようにカノンは体を寄せてきた。かすかに漂うサガのコロンの、野生を仄めかすようなマグノリアの香りはムウの皮膚を急にざわめかせた。
「ムウ…」
耳元で低くささやいたかと思うと、息を吹きかけ舌を絡ませ、歯をたてる。
「…ッ…ひっあ…っ…うあっ」
そのたび制御できないムウの体は面白いように跳ねる。カノンはそんな様子を完全に楽しんでいるようだ。
しばらく耳朶をなぶったあと、首筋に舌を這わせては咬み、ムウの肌に赤く傷跡をつけてゆく。
「く…っ…う…」
カノンが触れるたびに体が熱くなり涙が出そうなほど胸が締め付けられる。「こんなバカな」と思いながらムウは必死で声をこらえた。

熱に抗うのは羞恥のためではない。
こんな状況で無理矢理に犯されることを除けば、男と寝ること自体はたいしたことではなかった。異常なほどムウに寛容なサガは浮気の一つや二つ、いつもあっさりと許してくれる。
…だが…この男は、カノンだけは絶対にダメだ。…今度こそサガが壊れてしまう。
せめて体は応じないようにと感覚を封じようとした刹那、頬を叩かれ反射的に目を開いたムウは、カノンの瞳に射すくめられた。欲情するどころか、敵を葬ろうかというほど冷徹な眼差しだ。
…この男はいったい何を考えているのだ…。
ムウは背を冷たい汗が伝うのを感じた。

カノンはムウのシャツも脱がさずに、下肢に移動した。腰ポケットから細長い黒の化粧箱を取り出すと金色に包まれた小さな立方体をつまみだす。包みを開くと乳白色のキューブが現れた。それはムウにとってなじみの深いものだった。自分すらサガの寝室のどこにしまってあるのか分からないものまでカノンは持ち出している。
「一回ひとつ…二つくらいいけるだろ」
すでに指先で溶け始めたそれをカノンはムウの入り口にあてがうと無理矢理に押し込んだ。
「いっ…」
「あっというまに飲みこんでいったぞ。もう一つ」
「くっ…ぅうううっ…っ…は…あ」
思わず漏れた声にカノンは短く口笛を吹く。
「こんな状況でも感じるんだな」
「違…」
「じゃあなんだよこれ」
半ば硬化したムウ自身をカノンは指先ではじく。
「ああっ…や…っ…っう」
それを爪弾いてもてあそんでいたかと思うとカノンは、やにわにムウに侵入してきた。
「うあ…っ…く…ううう」
内部では先ほどの個体が解けてはいたものの、いまだ狭いムウの中を、カノンは息もつかせないほど激しく責めたてる。絶え間なく揺さぶられ、強張っていた筋肉が緩む。余計な力が抜けたその中を、カノンはゆっくりと動きはじめた。ムウは大きく広げられた両脚を閉じることもできない。
「ぴったり…だ」
奥まで挿しいれるとカノンは大仰に感嘆してみせた。
「よほど長いこと兄さんにヤられてたんだな」
「いうな…あ…あああっ…く…っ…ん」
…確かに内奥から感じるそれはサガのものと寸分も違わない。
「何もしなくてもオレに吸い付いてくるぜ」
制御しきれない体の反射であるのだが、次第にせりあがる腰をムウは恥じた。
「ヤセ我慢するなよ…久しぶりなんだろ?」
「…な…に」
「ずっと放っておかれた…違うか?」
確かにサガに触れずに10日を過ぎたころからムウの体は耐え難いほど乾いていた。むろん誰と寝てもその飢えは埋められなかった。
しかしなぜそれを、カノンが知っているのだ。まさかそれほどあからさまにサガに避けられていたのかと、ムウは動揺を隠せない。
「図星か。まあ、そうだろうな」
「…っ…なぜ…」
「兄さんに、おまえと寝たと言ったのさ」
「な…」
「クク…いい顔するなおまえ!」
「う…嘘…だ…」
「ああ。だがもう嘘じゃない。こうしてオレのをくわえこんでるだろ?」
「…な…っ…つ…ううう…や……いや!」
信じがたい言葉に頭が真っ白になるというのに、その衝撃が下肢の切迫感を押し上げる。
「凄いな…よく締まるぜ」
カノンの言葉と激しくなる責めに体は押し流されてゆく。
「や、あ、あ、ああっあああああ」
背が壊れそうなほど弓なりに反り、骨盤から足指の先までが傀儡のようにガクガクと痙攣する。
「もう…やめ……ああ…あああっだめ…いっ…」
ムウの内壁がひときわ大きく痙攣し、白濁がサガのシャツの襟元まで飛んだ。
「オレでイクとはな…」
「あ、あああっう…やあああああっ」
カノンは呼吸もままならないムウをさらに追い立てる。
「うっああ…あ…い…や」
卑猥な水音がますます高く響く。こらえきれなくなった甘い悲鳴が、押し寄せる快楽の波に溺れ揉まれる体が、もう何もかもが耐え難くムウは泣き叫んだ。
「何が、嫌、だよ。イキまくってるくせに」
ムウ自身を苛みながらカノンはギリギリまでじらし、内側からも楔をうち込み容赦なく追いたててゆく。
ムウの拒絶はもう言葉になっていなかった。
「たまらないんだろ?こうやって無理矢理、しかもめちゃくちゃに犯されるのが」
「っ…くっ…う、あ…あ…あ」
「やはり、おまえが好きなのは…サガの…身体だな」
「や…あっあんああ…ああ」
もはやムウには否定する余裕などなかった。
喉元まで刃で刺し貫かれたように声も出ない。心が引き裂かれ、切り刻まれているというのに、それと同じくらいの衝撃が稲妻のように体中を走る。膿んだ傷が掻き毟られるように苦痛はすべて鋭い快楽に塗り替えられてゆく。息もできないほどにぎりぎりまでのぼりつめては落ち、落ちたかと思えばすでにそこが頂だった。
カノンの凍るような眼差しにムウはまるであの男に組み敷かれているかのような錯覚に襲われた。恐怖…いや、そればかりでは…ない。
「そして本当は…おまえは兄さんでなくて…あの男がいいんだろう?」
「うあ…い…ああ…あああああああっ」
ムウ自身が封じ込めた忌まわしい感情をカノンはいとも容易く引き摺り出した。

あの、男…黒い髪のサガ。
心臓の近くで何かが破裂するかのように粉々に割れていく幻を、ムウははっきりと見た。ゆっくりと飛び散った破片の一つが、そばにいた少年を直撃し、彼は胸を貫かれて倒れた。自分によく似たその体は血の代わりに流れ出る黒々とした闇に飲みこまれてゆく…。
「否定しない…ふん、そうか…やはりな」
「…あ……うう」
「兄さん…とうとうこいつ…認めたぜ」
それはカノンの独り言だった。しかしそこに居るはずがないサガに、ムウは確かに聞かれたと思った。

カノンは静かに呟く。
「サガをあんなにしたのは、おまえだよ。…意味は…わかるな」
それはどんな侮蔑の言葉より鋭くムウを裂いた。
衝撃のあまり喉が張り付いたように強張り、声をあげることもできない。
おそらくムウに対して何の感情も持たないのだろう、カノンはその白い体を冷たく見下ろしたまま乱暴に腰を打ちつけ続けている。
しなやかに引き締まったムウの内腿を布地越しに感じながら、カノンは中に全て吐き出すと、抜け殻のようになったムウを寝台に投げた。
「…いいザマだ」
ムウは、はっきりと思い出した。
…カノンの目は…かつての自分のものと同じ…その奥に揺れていた感情は、紛れもない憎しみだった。

カノンは前立てを閉じ、服を整えると、
「二度とサガに…兄さんに近づくな。…頼むぜ」
そう言って去っていった。


熱が収まると同時に体は急速に冷えていった。
…寒さには慣れているはずの指先が氷のように冷たい。何もかもが凍り付いてしまったようだ。涙すら出ない。
ムウは茫然と記憶をめぐらせた。


…サガが苦しんでいたのは事実だ。
そうだ、サガはずっと苦しみ続けていた。
そして…今も。

彼の罪と13年の歳月はその心を蝕み続け、ついにサガは自ら死を選んだ。
その葛藤を知りながら追い詰めたのはムウであった。その日々、二人のサガとムウは暇さえあれば互いを貪っていた。肌を合わせるほどに亀裂が深まり、傷にまみれると知りながらも、ついに離れることはできなかった。

それでも、女神が勝利し、いま一度生を許され、サガがアイオロスやシオンと和解したとき。ムウは心から喜んだ。ようやくサガの心の荷が下りたと思ったからだ。

…そうであるのに。
サガのムウを見つめる瞳はふたたび悲しげな色を宿していた。
それが何故なのかムウには分からなかった。いくら尋ねてみてもサガは「自分のせいだ」と寂しく笑うばかりだった。 その苦しみの前では自分の存在など、なんの重さもないことを思い知らされる。

…それが。
まさか、サガを苦しめていたものが、わたしの裏切りだったとは。
…シオンの仇であり、サガが最も憎んでいるあの男に、体ばかりでなく心を許してしまった。このわたしの罪深さに比べたらカノンの暴挙など何だろうか。本当に、唾棄されてもおかしくない、こんな汚れきった、穢らわしい、あさましい、わたしは…。
…カノンの言う通りだ。サガにはもう触れることすら許されないだろう。

「サガ…」

その名を呼ぶとようやく涙が溢れてきた。
思わず頬をぬぐった手に、身体の自由が戻ったことが知れたが、ムウはしばらく動くことができなかった。


* * *







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