○第一幕第二場
けさもまた、元気出して朝のランニング。
――と思ったものの、金牛宮の入口で、さすがのアイオリアもその先へ進むことためらった。
なぜなら、宮の中から異様な小宇宙があからさまに立ち上っていたから。
進むべきか、引き返すべきか。
引き返すのもおもしろくないが、進んでもいけないような気はひしひしとする。
しかし、引き返してしまっては日課のランニングをサボってしまうことになる。
「うぬう……」
しかし。
悩みはものの数十秒で解決した。
アイオリアの気配を察して中から出てきたシャカとサガが、アイオリアの両脇に威圧するように立って、腕をとったのだ。
「な、なにをする!?」
シャカとサガという妙な組み合わせ、そしてこの状況。
アイオリアはあわてふためいて腕を引き剥がそうとしたが、それぞれ一人ずつの黄金聖闘士に両腕を押さえられては敵うはずもない。
「放せ!!」
「アイオリア」
サガがアイオリアの目を見据えつつ声を出した。
「な……なんだ、サガ?」
「ムウを諦めるか、この協定に賛同するか、どちらか選べ」
「は?」
意味が分からない。サガはいきなりなにを言いだしたのか。
とりあえずアイオリアは、サガが空いているほうの手で顔の前に差し出した紙を、読んでみた。
途端に、アイオリアの眉間に盛大にしわが寄った。
「なんだこれ?」
「なんだではない。見て分からないのかね?」
と、今度はシャカが言った。
「抜け駆けしてムウにアプローチはしないという連判式の証文だ」
それは確かにそのとおりらしく。
紙には、その旨が書かれ、サガ、シャカ、アルデバランの順で名前が記してあった。
否、名前だけではない。自筆の署名の下には、赤黒い跡が。
「け、血判……?」
時代錯誤と言うか、なんと言うか。感想の述べようもなくて言葉を失ったアイオリアに、サガが畳みかけた。
「おまえがムウに特別な気持ちを持っているならこれに署名して、自らの血で判を押せ。
署名しないのなら、今以降ムウにはむやみに近づくな。どちらもいやだと言うなら――」
そのあとを、シャカが継いだ。
「私が引導を渡してやるから、迷わずあの世へゆきたまえ」
「いやっ、おれは!!」
アイオリアはブンブンと力いっぱい首を横に振った。
「ムウのことはただの友人兼同僚だと思ってるぞ!」
「そうか」
ふいに両腕が放された。そして、シャカが言った。
「ならばよい。が、今の言葉がうそであった場合には命はないぞ」
「おれはうそなどつかん!!」
「つけない、のほうが正しかろうがな」
フッと、笑いに唇を歪めてサガが言った。
「うるさい!!」
喚いたアイオリアを無視して、サガは紙を持ったまま身を翻した。
追うようにしてシャカも十二宮上方へ向かって歩きだす。
「ど、どこへいくんだ?」
「決まっているであろう。順に同じように訊ねつつ上へゆくのだ」
律儀にも一旦立ち止まって言い放つと、シャカは最早後ろを振り返ることもなく、金牛宮を出ていった。