○第二幕第一場
 
「――ははあ、それでここのところ、シャカとサガは毎日のように連れ立って現れるのですか」  
グラスに入ったアールグレイのアイスティーの中の氷をストローでかき回しながらムウが言うと、向かいに座ったアフロディーテは軽く頷いた。
双魚宮のリビングには午後の日射しが斜めに射し込んで、人も物も、今はすべてやわらかな影を伴っている。
「そうらしい。で、結局例の証文に署名したのは7人だって。言い出しっぺの二人のほかに、アルデバラン、カノン、デスマスク、シュラ、アイオロス。シャカとサガが、これに名前を書かない限りはなにがあっても未来永劫ムウには必要以上に近づくなっていう勢いで迫ったんで、きみのことが多少なりとも気になる連中はみんな、署名せざるを得なかったって感じみたいだよ」
「はあ」
ムウは気の抜けたような声で曖昧な相槌を打つ。
「なぜ私の与り知らぬところでそんなことになっていて、私がこんな目に遭わなければいけないのか、今イチ納得がゆきませんが」
「“こんな目”って?」
「毎日のようにサガとシャカに押しかけられ、アイオリアやミロには顔を見れば逃げられ、カミュには遠くから気の毒げな視線を向けられるという昨今の状況です」
「モテて結構じゃないか」
「そういう問題でもないような気がしますが。――ところで、アフロディーテ。ということは、私と二人でお茶なんか飲んでいると、あなたも大変なんじゃないですか?」
「ああ、平気。いや、まあ、嫌みの一つや二つは言われるかも知れないけど、きみのほうが私のところを訪ねてくる分には大丈夫。逆はだめだろうがね」
「そうですか。それならいいのですが。居心地のいい休憩場所を奪われるようなことになっては、いかな私と雖も腹が立ちます」
「うれしいことを言ってくれるね」
アフロディーテはにっこりと、その涼やかな面に美しい笑顔を刻んだ。
ムウも応えてほほえみ、それからその笑顔を収めて、思案げに言った。
「それにしても……。このまま引き下がっては、アリエスのムウの名が廃りますね」
「まあね。――どうかするのか?」
「ええ、まあ」
「なにか楽しいこと?」
「かも知れません。結果が出てみないと分かりませんが」
「ふーん。じゃあ、部外者の私は、過程と結果をこっそり楽しみにしてるよ」
ニヤニヤしながらアフロディーテは言った。


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