○第二幕第二場
その日。
昼下がりの白羊宮に呼び出されたのは、黄金聖闘士ばかり7人だった。
――7人。
つまり、例のメンバーである。
もちろん、呼び出されたほうも顔ぶれの意味が分かったため、開け放たれた白羊宮のプライベートスペースのドアの周りに溜まって、ムウを前にして、互いに牽制し合うような、あるいは探り合うような、あるいは助けを求め合うような視線をちらちらと交わす。
そうしながらデスマスクが、半ば独言のように声を発した。
「このメンバーってよ……」
「なにかおかしいですか?」
聞きつけたムウは花のごとくほほえんだ。ムウのこういう表情が油断ならないことは、常に悪意なく相手を眺めるアルデバランと、天然ボケのアイオロスと、そんなことには頓着しないシャカ以外、みな知っている。デスマスクが、
「いや別に、おかしかねえけど……なあ?」
言って、そばにいるカノンをチラリと見た。カノンはデスマスクと視線を合わせて、軽く肩を竦めてみせた。
「で、我々になにか用なのかね、ムウ?」
シャカが促すと、ムウは「こちらへ」と言って一同をダイニングルームへ導いた。
ダイニングルームのテーブルには、薄い桃色の清潔なテーブルクロスがかかっており、その上に大きなパイのようなものが、皿に載せられて置いてあった。
「なんだ? ケーキ?」
カノンが言った。ムウがほほえんで答える。
「ガレット・デ・ロワですよ。外は見てのとおりパイ生地、中にはアーモンドクリームをつめて焼いてあります。キリスト教の公現節に食べるお菓子です」
「それがどうしたんだ、ムウ?」
アイオロスが不思議そうに首を傾げた。
「公現節に食べるこのお菓子には、陶器の人形――フェーブと言うのですけれど、それが一つ入れてあって、自分の分の一切れの中からそれが出てきた人が、その日一日、王様の役をやれるんです。で、今回は、それをちょっと変形して――」
言いさして、ムウはにっこりしたまま、一同の顔を見渡した。
「フェーブが出てきた人と、あす一日、恋人のまねをしようかな、と思って」
「恋人のまね!?」
一同がハモるようにして聞き返した。
「ええ、恋人のまねです」
とムウは再び言った。
「なにを考えているのだねムウ!?」
「そうだとも、一体突然なにを言いだしたんだムウ!?」
詰め寄らんばかりにして言い立てるシャカとサガに、ムウは不満げな表情を向けた。
「だって、たまには私も貴鬼以外のだれかと連れ立って街で買い物したりしてみたいんです」
「そんなことならこんな七面倒くさいことをせずとも私が――」
「あっ、こらシャカ! 貴様協定を破って抜け駆けする気か!?」
言ったサガはすかさず、ムウに近づこうとするシャカの上衣の裾を掴んだ。
ムウはその様子を後目に、
「問答無用です。参加したくない人は帰ってくださって結構ですよ。――アルデバラン、どうします?」
唐突に名指しされたアルデバランはうろたえた。視線が彼に集中する。
「いやその、おれは……っ……」
言いかけて、口をぱくぱくするアルデバラン。
一同、固唾を飲んでつづきを待つ。
アルデバランはまっすぐにムウを見る。ムウもまっすぐに、やさしそうな目を見つめ返す。
――そして。
「参加する」
と、アルデバランは答えた。男らしく。
「じゃー、おれも参加」
カノンが軽く手を挙げた。
「おれは、もとから参加する気満々」
楽しそうにアイオロスが言った。
「参加に決まっている」
不平半分ながら、シャカも言った。
「当然私もだ」
と、サガ。
「おれも一応参加」
シュラが言い、デスマスクが、
「んじゃ、まあ、おれも」
最後に表明した。
数分後。
七等分にうまく切り分けられたパイの載った小皿を手に、7人はそれぞれフォークでそれをつつき始めた。
「つーか、うめえ」
感心したようにデスマスクが言った。
「ああ。ものすごくうまいな」
カノンが頷く。
「ありがとうございます」
ムウはにっこりと、しかしあまり意味のなさそうな笑みをその美貌に浮かべた。
ほどなくして、「あっ!」と声をあげた者があった。アイオロスだった。
「出てきたぞ、なんか固いもの――」
言ったアイオロスの手元に、射るような視線が集まる。
「なんだろ……あ、ネコだ。ネコの人形」
「では、当籤はアイオロスですね」
楽しそうにムウが言った。
「あした一日、私の恋人役をしていただけますか?」
「そりゃもちろん、喜んで」
とてもアイオロスらしい屈託のない笑顔で返したアイオロスの体じゅうに、濃淡さまざまな嫉視の矢が突き刺さる。が、生来鷹揚な射手座の黄金聖闘士は、そんなことは特に気にもならないようだった。