Scene 1 ムウ

『ムウ。契約をやめよう。』
その言葉はあまりに唐突だった。
黒いサガからの言葉。
ムウは思わず、その顔を見つめた。

静かな冬の日の午後だった。
台所の窓からこぼれる光が、真鍮の湯沸しに鈍く反射する。

『なに、別にサガに気を使うなんてことがあるわけない。
二人一緒だとうるさくてかなわんからだ。』
ムウが答えるより先に黒のサガが言葉をつぐ。
「…それはそれは…願ってもないことですね」
『……』
「わたしの手間も減るというものです。なにか良からぬことでも考えてなければよいのですが」
いつもの軽口も切れ味が悪い。
ムウは沈黙に耐えかねて無理矢理に言葉をつないでいた。
『…いや』
それだけを言うとサガはくるりと背をむけた。
その背中は何も語ってはいない。


湯沸しの蓋がカチカチと音を立てているのに気付き、ムウは火を止めた。
『わかったなら早く消えろ』
「あなたは…わざわざ呼び出しておいてなんという言い草ですか。いいでしょう、言われなくとも消えてさしあげますよ。ごきげんよう。」


立ち去ろうとしたそのとき、大きな腕に抱きすくめられた。
「…サガ?」



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