サガ(黒)がムウに別れを告げるために、双児宮に呼び出したのはその日の午後だった。
珍しくお茶を出す、などと言い出したサガを不審に思い、ムウが台所までついてきたのだ。
「いい機会だ」、とサガは思った。
…手際よく茶の用意をするムウを見ていると決心が鈍る。言ってしまおう。

『ムウ。契約をやめよう。』
ムウは少し驚いたようだった。
『なに、別にサガに気を使うなんてことがあるわけない。二人一緒だとうるさくてかなわんからだ。』
一気にまくし立てた。
…もう、さっさとこの場から逃げ出してしまいたい。


「…それはそれは…願ってもないことですね…」
さして驚いてもいないムウの様子にサガはやはりな…と苦笑いする。
…やはりお前はあのサガがいいのだな。このわたしを欺くほどに。わたしはなぜ…言えないのだ。それが苦しい、と。
『……』
「わたしの手間も減るというものです。なにかまたよからぬことをたくらんでいなければよいのですが」
『…いや』
はぐらかすようなムウの言葉に応じる余裕はなかった。その姿を見つめることももはや最後かもしれないと思うと前言を覆したくなる。
もはや片時も離れることは耐えがたくなっていたこの男とも…しかし今なら。勢いに任せて幕を引くことができる。
サガは己にそう言い聞かせムウに背を向けた。
『わかったなら早く消えろ』
…なにをぐずぐずしているのだ、ムウ。行け。早く行ってくれ。。
「あなたは…わざわざ呼び出しておいてなんという言い草ですか。いいでしょう、言われなくとも消えてさしあげますよ。ごきげんよう」

立ち去ろうとしたムウを気が付いたら抱きすくめていた。
自分ではない…これは。。

「…サガ?」
「ええい、おまえたち何をやっている。」
白のサガが見るに見かねて強引に出てきたのである。
『サガ!邪魔をするな』
「サガ…」
「ムウ、わたしは余計な真似をしたとは思っていない。あいつはまったく天邪鬼だから…分かってやってくれ。」
「どういうことですか。」
「奴はわたしにおまえを譲ったのだ。…最も憎んでいるはずのわたしにな。」
「…それはつまり」
「あいつはそこまでおまえのことが…」
『うるさい。うるさい、面倒になっただけだと言っているだろう!サガおまえはだまっていろ。』
「嘘を言うな。おまえらしくもないぞ。ムウ、奴は…」


ムウはサガに口付けをし、その言葉を遮った。
「私は…あなたと離れるなど嫌です。」
その大きな双眸は水をたたえたかのように揺れ、その言葉が真実であることを語っていた。
サガはムウを抱きしめたままあやすように優しくムウの髪を撫でる。
そんなふうに触れられたらもう、理性が保てるわけもなく…ムウは言ってしまう。
「殺されてもいい…私はあなたを失いたくない」
『わたしも嫌だ!女々しいといわれようが嫌だ。ムウ…もう…どこにも行くな。』
と、サガがその腕に力をこめた瞬間、ムウの姿が消えた。

『ムウの奴どこに行った!!』



先ほどの興奮状態が一気に冷めたサガは思わす周囲を見渡す。

台所では沸かしかけのお湯が静かに湯気を立てているばかり。
「ムウらしいな…」
行き先をなんとなく察したもう一人のサガはその猛進ぶりに苦笑する。
盛り上がったところで置いてけぼりを食らったサガの立場はない。
ここは黙ってムウを追うしかないだろう。
『奴のどこが思慮深いんだ…』
舌打ちをしながらサガは双児宮を後にした。

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