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* 眼前に広がる海原。緩やかにカーブを描く舗装道路。 潮風を受けながら、俺は赤のランチア・ストラトスを走らせていた。 車はハンドルを切るたびにタイヤが吸い付くようだ。 たとえミーハーといわれようが、一度は乗ってみたかった幻のラリーカー。 初夏の日差しに輝く蒼い地中海… そして俺の横には髪をなびかせる、可愛い女。 ちっぽけな人並みの幸せがこれほどまぶしく思えたことはなかった。 風に散らされた長い髪が俺の頬をくすぐり、俺は思わずそちらを向く。 「いい天気ですねえ。」 乱れた髪をかきあげながら女は呟いた。聞き覚えのある低い声。 「…げっ!ムウ!?!?」 相手は婉然と微笑んだままだ。間違うわけもないその眉毛。 「何でおまえがそこに座っているんだよっ!!」 「おや、運転席のほうがよろしいですか?」 「そういう問題か!?お・・お前・・」 「…デスマスク。」 奴はどきりとするような笑みを浮かべてこちらを見やがった。 「何だよ・・何なんだよ!」 「よそ見は感心しませんね。」 前を向くと道路はそこで途切れていた。 「うぎゃっぴぃいい」 空に舞う車。奇しくも崖下に転落死したストラトスのレーサーが頭によぎった。 …なんでよりによって隣に…… アリエスのムウ。俺はこいつが大嫌いだった。 * 目が覚めた。 蒸し暑い朝だった。 ベッドから起き上がろうとして俺は声を失った。 「!?」 「おはようございます」 悪夢だ。あの男が、いる。 「随分とうなされていましたね。」 夢で見たのと同じ微笑み。俺は早くも一日の気力を使い果たした気分だった。 「…お前なあ。後生だから人の枕もとに立つのはやめてくれ」 「夢見が悪いとでも?」 「最悪だ」 …誰のせいだと思ってやがる、俺はぶつくさいいながら服を着た。 「で、何の用だ」 「シオンがお呼びです。我々に頼みたいことがあるとか」 「何で俺とお前なんだよ!!?」 嫌がらせかよ、とつい口が滑りそうになる。しかしあのお方に逆らえるわけもなく、俺らは二人して 教皇の間に向かった。 *
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