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* 果たして。俺たちはやはり国を間違ったらしかった。 目的地はオーストリアだった。 いまどきガキでも間違わないような単純なミスだったが、ムウがうろたえるという世にも珍しい事態になった。はっきり言って、楽しい。 「…全くお詫びの言葉もありません」 「朝早くから、とんだ無駄足だぜ」 「…申し訳ありません」 ムウは今にも土下座でもしそうな、うなだれようだ。 確認しなかった俺にも責任はあったが、またとないチャンス。 こみ上げる笑いをこらえながら、俺は意地悪に責めつづけた。 「あーあーブロンズどもやお前の弟子には顔向けできねえな・・」 「……」 奴は耳まで赤くして、羞恥に震えている。…楽しいィイ! 「何とか言ったらどうよ。おい」 俺はムウの顎に手をかけてこちらを向かせた。 ムウは唇をかみ締め、頬を上気させてうっすらと涙目になっている。正視に堪えかねて伏せた睫毛の長いこと。…女みたいだ。というか…なんだよこの雰囲気は・・・。 何かいたたまれない気になり、俺はつい心にもないことを言ってしまった。 「ま、…別にそんなたいしたロスじゃないだろう。悪くない余興だったぜ」 「デスマスク…」 だからそんな目で見るな、見るなよ。 いつもの余裕の優雅な微笑みとやらに戻れよ。ってなんでうろたえてるんだ俺まで。 「もう一度勅書を確認しようぜ」 「その必要はありません。前々教皇の時代にオーストラリアと交流があったわけないではないですか」 「そりゃ…そうだな。」 各教皇がたっぷり250年先生きたとしてざっと800年前か。あるわけないな。 しかしその勅書には、きっちり書いてあった。 「オーストラリア」 と。 * どうやら我々はシオンにおちょくられたようだった。 「まんまと一杯くわされたってわけか。…ったく冗談にもほどがあるぜ」 「いえ、気が付かなかった私が迂闊だったのです」 弟子としてよほど辛酸をなめたのだろう。このような仕打ちには慣れている、といった風だった。…俺は少しだけこいつに同情した。 オーストリアの某銀行の隠し金庫とやらには古い教会の宝物を収めた部屋だった。俺が手引きをし、その隙にムウが入り込んで布とやらを持ち出した。 どう考えても完全に泥棒だろう。 「ご苦労だった」 俺たちがねぎらいの言葉をたまわったのは日も暮れかけたころだった。シオンは布を手にし、満足げな様子だった。布の意匠が非常に珍しい?・・確かにその布には鳥やら樹木やらの細かい刺繍があったが俺に言わせればボロ布も同然だった。 「読んでみよ」 シオンは飾り文字を俺たちに示してのたまった。 俺はとっさに隣のムウを見た。頼むぜ。こういう面倒臭いのは苦手だ。 「『・・汝の隣人を愛せ』また『汝の敵を愛せ』」 ムウはよどみなく読み始める。 なんだ、カトリックの文言か、と俺はほっとした。 「『汝の頬を打てるものを愛せ』、『汝の脚をさらうものを愛せ』」 そういえば俺はこいつをタコ殴りにしたなあ、とふと思い出す。しかしその仕返しにこいつは俺のことをぶち殺しやがったからなあ。 「『すべての罪人を赦し、愛せ』」 「…よいな。ムウよ」 「承知いたしました」 さっぱりわからねえよ!何なんだこの師弟は。 *
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