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とにかくこの悪夢から目を覚ましたかった。 キッチンにいってエスプレッソを淹れる。 生豆を陶器のパンで炒ること十数分。 コーヒーの香りにムウも起きてきたようだ。 「おはようございます。」 相変わらず笑顔だ。何が楽しいのやら。 「……」 「シャワーをお借りしてもよろしいですか。」 「…廊下の突き当たりを右だ」 寝室に戻るといつのまにか昨夜の酒瓶やら料理やらは綺麗に片付けられていた。 カフェインが入り、少しは気分がよくなった俺は、髪を無造作にタオルで拭くムウに、ドライヤーを貸してやった。 「そのまま乾かしたら髪が痛むぞ」 「大丈夫ですよ」 「…いいから、貸せ!」 俺はムウをソファーに座らせるとドライヤーで丹念に熱風を送った。乾かしすぎない絶妙なタイミングで長い髪を一気に乾かすとストレートのムウの髪は文字通りサラサラと音を立てるかのような仕上がりになった。 「素晴らしい」 「…当然だ」 「ありがとうございます」 こいつがあまりに無邪気に喜ぶのでつい仏心を出してしまった。 淹れたてのコーヒーをすすめる。 「あなたのところのコーヒーは格別ですね。」 …あたりまえよ。おまえイタリア人がコーヒーにこだわらなくてどうする。と思ったが黙っていた。 「寝起きだからだろ」 「いいえ。どこで頂くよりも美味しいですよ?」 …をい。今のは問題発言だろと思ったがあえて流した。 …こいつ。 ムウは朝食をとらずに帰るという。 「大変ご馳走様でした。」 「…フン」 二度と来るな、とは思ったが。 「楽しかったですよ。」 と、くったくのかけらもない笑顔を向けられ、言えずに終わる。 まあいい。ようやくこの男から解放されるのだ。 俺はムウを宮のそとまで送ってやった。
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