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Scene デスマスク 「……!!」 思ず自分から舌を絡ませそうになるくらい、奴のキスは巧みだった。 俺は己を取り戻そうと必死だった。 …なにかとても負けている気がする。どう考えても襲われている、という感が抜けない。事実そうなのだから仕方もないのであるが。 それよりも問題は思うがままに弄ばれている己の哀れむべき半身である。 ムウの髪が揺れサラサラと落ちてくる。 髪をつかんででも形勢を逆転せねばならないのに、手が動かない。 いかん、このままではムウの手で不様に果ててしまう。 そう思った瞬間、ムウが責めの手を緩めた。 「さてどういたしましょうかね。」 「・…!?」 「私もはじめてなのですよ」 「はい??」 「なので少々手荒な真似をするかもしれませんが」 「腹が決まっているなら聞くな!」 「そんなことはもう…どうでもいいから早く…何とか…しろ…」 「どうして欲しいのですか?」 「くそ・・おまえ心底たち悪いぞ…ああっ…や・・やめろ!」 先端からこぼれる透明な液体をムウは面白がって指の腹ですくう。 その刺激に、さらに張り詰めた自身を嫌でも意識することになる。 「私は充分楽しんだのでここでやめてもいいのですよ」 そういいながら笑うムウの顔はとても楽しそうだった。 小僧ではあるまいし、自身の体は制御できると思っていたデスマスクであったが 今や差し迫った欲望をせき止めることで必死である。 綺麗な女にリードされている、そんな幻想に逃避しようとしてもその声はまちがいなくムウ。 デスマスクは混乱する頭で必死に考えをめぐらせた。 ムウが興奮している気配はない。どうやら本気で自分を襲う気はないらしい。 …ということは 単に弄んでいるだけか。 なんという屈辱。 ここでこれ以上退いては伊達男の名がすたるというもの。 「ムウ…よく聞け」 「何です?」 「何の…つもりか知らんが…俺はお前が嫌いだ」 意外なことにムウの指の動きが止まった。よ…よし。 そうとも!この男にこれ以上されるなど俺のプライドが許さない。 「お前はさっき俺を愛してるとかいったな?でも俺は違う」 「…やはり私が嫌いですか?」 「そうとも!何度も言わせるな。お前なんか大嫌いだ!」 「…そうですか」 急に束縛が解けた。ホッとして起き上がるとムウはうつむいたままベッドに腰をかけていた。 「…私はあなたをつまらない悪党だと思っていましたが、それ以下のようですね。」 「おい、待てよ」 今にも去ろうとするムウの腕を取った。 髪に隠れた横顔から雫がしたたり、ベッドに落下する。 ムウが…こいつ泣いてやがるのか・? 顔を見ようと腕をつかんだままベッドに引き倒した。ムウは抗わない。 長い髪が敷布に散らばり、涙の粒がはじけた。 「なんで泣く…」 「わかりませんか。」 「わかんねえよ!」 何故かムウの目が真剣である。 …答えようによってはもう一度あの世へ飛ばされるかもしれない。 「…わたしはあなたを愛していると言った」 「教皇に言われたからって何をそこまで・・」 「あなたには分からないのか、デスマスク。」 「・…」 黒目がちな瞳に涙を湛えたムウは壮絶といっていいほど美しかった。 いつのまにか形勢逆転に成功しているのに、依然として体が動かない自分にデスマスクは再び焦りを感じた。 なぜか動悸は激しくなる一方で、息苦しい。 …ああ。むしろさっきのお遊びのほうが気が楽だった。 こいつを泣かせるなんて…こんなときでもなけりゃ楽しいはずだったろうに。 ムウのまなざしは自分を非難しているようにも思え、さきほど自分を追い詰めた男とは別人のようだ。 …こいつのことがいよいよ分からなくなってきた。 「デスマスク、私は・・」 形のいい唇が動いて自分の名を呼ぶ。 気付いたら俺はその唇をふさいでいた。 唇の柔らかさを確かめるかのような、触れるだけの口付け。 長い時間そうしていたようにも思えるし、一瞬のようにも思えた。 ムウが身じろぎをし、俺は慌てて体を離した。 「デスマスク?」 ムウの声に我に返る。言い訳を考える暇もなく。 「たぶん…そんなに…嫌いでも…ない。。」 実に間抜けな言葉を言ったものだ。 「…よろしい」 ムウはそういうとニヤリ、と笑った。 「さきほどの続きをいたしましょうかね。」 騙された、のか?やはり??ムウの腕が背中に絡みつく。 「あじゃぱあ〜」 …かくして俺は、男の味とやらを知らされる羽目になった。
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