*       *        *


「君の意識に入り込む」
ムウは我が耳を疑った。
たとえ最も神に近い男でもそのようなことが、
ましてや同じ黄金聖闘士を相手に、容易にできるはずがない。
「いいかね」
「嫌だ・・・!」
一歩間違えれば互いに消失しかねない。
何より、さんざん無礼の限りを尽くしたこの男が自分の中に入り込んでくるなど、どうして許せるだろう。

ムウは小宇宙を燃焼させる。
「大人しくしたまえ」
シャカは静かに印を結び、座禅を組んだ。
その燃え立つようでいて清冽な小宇宙の高まりに
ムウは慄くような美しさを感じた。
その刹那、増大した互いの小宇宙は接点を失い、急速に融和してゆく。
ムウは己が消失してしまうような感覚に飲み込まれた。
ここで下手に抵抗したらおそらく互いに命はない。
ムウは防御を解きシャカの侵入を受け入れるべく意識を同調させた。


魂を裏返されるかのような苦痛。
ムウの心の襞が圧倒的な熱量につぶされ、溶解してゆく。
細胞の一つ一つにまでシャカが強引に浸透しているかのようだ。
相手もおそらく同程度の痛みを被っているはずだが
一片の迷いもなくその意識は進んでくる。

さきほどまで痛めつけられたムウの理性は
この男が自分の中で同化しつつも動き回り意識の深奥へ 深奥へと進んでゆくさまを他人事のように見つめていた。


光のような明度を持ったシャカの意識が、暗く深い自分の中に沈下してゆく。

ムウの内部は、その身にまとう業の重さにすすり泣き、
ところどころ悲鳴をあげていた
大量の血の海に累々と浮かぶ屍や死んだ聖衣、
星座に上げられた動物や異教の神々。
彼の仕事場を反映したかのような 雑多で不安定な世界。
あまりに色々な念が渦巻き 押し流されそうになる。
その波間に同僚の顔が浮かんでは消えてゆく。
「手に負えないものばかりの巣窟だな」
これだけ複雑な様々な事物を御しているのは
いかにも大変そうだ、とシャカは思った。

より奥に意識を潜らせてゆくと、やや明るい光に包まれて
彼の弟子の貴鬼、そしてより一層深いところに師のシオンが見えた。

そして・・

シャカが難く閉ざされた最奥に触れようとしたとき

「嫌だ・・絶対に嫌だ!」
ムウの意識が歪み、嵐のようにシャカを襲った。
それでもかろうじてその深奥の割れ目に手をかけたが
「やめろ!」
強い拒絶の意思に跳ね返され、シャカはムウの中で裏返った。
逆にムウがシャカの意識を支配し始める。
あたかも比重の違う液体がさかさまにされて混じり合うように
双方の視点がゆっくりと逆になる。

シャカの意識は驚くほど空虚でムウを拒む様子はない。
拠るべきところのないムウはその内部を素通りしたような形になり バランスを崩す。 重心が失われ、互いの意識が混濁し始めたことを悟ったシャカは その機にムウから離脱した。

時間にして僅か一瞬の出来事であった。

シャカの呪縛を逃れたムウは我に返る。
もうすっかり日の落ちた部屋には
髪の毛ひとすじの乱れもないシャカと、
半裸で汗と涙と体液にまみれた自分がいた。

ムウは無言でバスローブの乱れを直し、口を開こうとするシャカを遮った。
「気が済んだなら帰れ」
「ムウ」
「出てゆけ!」





Next

その他メニューへ