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 そんななか、聖域からほど近い、海商王ソロ家のパーティで女神がさらわれるという事件が起こった。俺達黄金聖闘士はアイオリアを囲んで緊急に話し合いを持つことになり、ムウもジャミールから戻ってきた。

ムウは少しやつれた顔に厳しさを漂わせながら、凛として聖衣をまとっている。
毎晩のように俺を求めてきた男とは別人だった。
「戦いが始まります。」
そうだ。もう、戦いが始まるのだ。
聖衣姿のムウは気高くも優美で、武装した智天使のようだった。

・・・そうだ。俺は同じ女神の聖闘士なのではなかったか。
星矢たちを、あの輝く瞳の少年達を守らなくてはならないのだった。
俺はいままでの己を恥じた。同時に、迷いは抜けていった。

「勢いに任せて相手を殺すなど、言語道断です」
「何を言う!」
ムウとアイオリアはさっそく衝突していた。話し合いの結果、どうしても女神は聖域に来ないだろうという結論になった。ならばわれわれの誰かが、守りに行くしかあるまい。
アイオリアとムウをなだめながら、俺は口火を切った。
「俺が行く」
俺は仲間を見渡すと、ゆっくりと繰り返す。
「俺に行かせてくれ。」
「順番からすれば私ではありませんか。」
ムウが口を挟む。
「でもお前には修復があるだろう。それを考えたら、俺が妥当だ。」
話し合いは終わった。結局、俺が守りに出ることになり、ムウが五老峰の老師にその意思を伺うことになった。


帰り際にムウが俺を呼び止める。
「・・・気になっていることがありましたが、大丈夫のようですね」
「どうした」
「あなたは一時期、私がいなくなってひどく動揺した。それでは戦えませんから。」
・・・俺はあらためて、俺達は終わったのだな、と思った。
しかし、そのとたん
「それでは・・・私だって戦えません。」
とムウが呟いた。後ろを向いているからその表情は知れない。しかし俺はその声音を聞きのがさなかった。
「ムウ・・・俺は確かに舞い上がっていた」
そうだ、あのとき、お前が俺を好きだといってくれたから。
「でも、あのときも、今も、お前はお前だ。」
皆が冷たい奴だと言ったってそうではないのは俺には分かっている。
「お前はお前で強くあろうとしているだけだ。そして・・・俺はそんなお前だから好きなんだ。」
ようやく、言えた。

「アルデバラン・・・」
鼻で笑われるかと思ったが、ムウは振り返って俺を見つめていた。
「気のせいなどではありません。あなたに冷たくしたのはわざとです。」
今度は俺のほうが驚いた。
「あなたを私のために、苦しめてしまうのが怖かった。臆病な私を許してください。 今だってあなたの胸に飛び込んでいけたらどれほど良いか。しかしそれももうかなわぬこととなってしまいました。」
そうだ、俺達は行かねばならないのだ。戦いはもう始まっている。
「・・・忘れましょう。忘れてください。」
「・・・ムウ」
ムウは俺に背をむけ、
「気をつけてください。敵も二度は失敗しないでしょう。」
それだけ言うと去っていった。

俺はどうしていいか、また、分からなくなった。
分かっていたのは、ただ、あの夢のような日々が終わった、ということだけだった。
俺の心を映すかのように空は暗い雲に覆われ、じきに雨が降り出した。

雨はやまない。それどころか毎日バケツをひっくり返したような量があとから後から降ってくる。
十日ほどたっても老師の許可は下りない。焦燥を募らせる俺達に、日本の城戸邸にも賊が入ったという知らせがとどいた。
もう一刻の猶予もならない。
俺は日本に向かった。

ムウとはあれきりだった。どこか寂しげな後ろ姿を思うとやはりまだ胸がいたむ。
しかし俺は俺の使命を果すだけだ。


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