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そして夏休みが迫ったあの日…終業式が終わって校門を出ると

早速来ていた。

いつもより早く帰れて機嫌がよかった僕は

おとなしくシャカと一緒に帰った。

「ではムウ…また明日」

「明日は学校に来ない」

「じゃあ、明後日。」

「明後日もその次の日もずっと。」

「ええ?何故だ??」

「夏休みだから学校がなくなるだろ。」

「学校がどこかに消えるのかね。」

「そんなわけあるか!vacationだよ。授業がないの。」

「つまり君はその間学校には来ないということか

「そう。」

「じゃあ…しばらく君には会えなのだな。」

そう言ってシャカはめずらしくちょっとしょぼんとした。

…君って人は学校しか頭に無いの?

そんなに会いたいなら

うちにくればいいのに、といいかけて

僕はハッとする。

…何でこんなことを。

「帰りが遅くなってもいいか」

「何?」

「君に話したいことがある」

そして君は「あの丘に行こう」といったのだ。









いつもその丘には人気がなかったけど

その日ほどそれがありがたかったことはない。

明るい日差しの下で僕たちは終始無言だった。

夏つばきの白い花はこぼれんばかりに咲いている。

樹の下まで来て、ようやくシャカは口を開いた。

「…君は以前…私のことをディオゲネスのようと言ったが。 だが私は昔、ヘラクレイトスだったのだ。」

意外な言葉だった。君がめそめそ泣いていたなんて想像もつかない。

「わたしはこの世を何もかもを憂いていたのだよ。…だが今は違う」

「どうして?」

「君はわからないのかね?」

「分からない。」

その説明で分かるはずがないだろう。

「母を失ったときわたしは、この生がむなしいと考えるようになった。」

六歳で…?やっぱり只者じゃないなあ…。

「最終的には死に包まれる短い命に何の意味があるだろうと。」

…僕も悩むけどなんだか悩みの質が違う…

「だが今はこの生をいとしいと思う…」

白い花が風に揺られるたびその肩に、頭に、青い陰を落としている。

「わたしは…何のために生まれてきたのかずっと考えてきた。」

シャカの…目が開いて、まっすぐにこっちを見てる。

「わたしは君だと思うのだよ。」

「え…」

何を言ってるの?シャカ?僕がどうして君のその問題と関係あるの?

「わたしは君ゆえに生きる喜びを知った。」

慌てた。それって…

「…そんな考え方…僕は好きじゃない。」

「そうかね」

「生きる指標を他人に求めるなんて女々しいと思う。」

「何故」

「だって君には君自身の世界があるだろ?それをその人のために捧げるっていうの?」

「馬鹿げているかね」

「うん。いまどき流行らないよ。」

「ふむ…そうでなくてはならないのだが」

「そんなの君の勝手だよ。」

「だがそうでなくては私は生きている価値がないと思うのだ」

「そんなこと、もうちょっと生きてみないと分からないじゃない」

「では君は生まれてきたことに答えが出せるかね?」

「それは本当に分からない…でも僕は分からないことに価値があると思うけど」

「詭弁だな」

「そうかな」

「話がそれた」

「うん…それたな」

沈黙。

七月の太陽は南天を過ぎても容赦なく照り付ける。

僕たちはどちらかともなく木陰に移動した。

シャカは、まだ何か言いたいことがあるはずだ。

でもどうして黙っているんだろう。

「あのさ」

「うむ」

「君はいつも回りくどいよ。…国語の先生に怒られない?」

「まあ…忍耐力ない教師だとは思う。」

僕はちょっとだけそのシャカの先生に同情した。

「…ワンセンテンスで、言うとなにがいいたいの?」

「つまり君が好きだということだ」

「え…」

シャカは怖いくらい真剣な瞳でこっちを見てる。

そんなときのシャカの目は凍えるような青になる。

「そ…それはたとえば焼きうどんが好きとか、そういう意味だよね」

「違う」

「君が欲しい。触れたいと思う」

「言ってることがよくわからないんだけど」

声が震えてるのを隠せない。

「どう、分からないのだ」

「だって君は男だし僕も男だ」

「知っている。女でないなら大概男だ。何も不思議なことではない。」

「男が男を好きだなんて変だよ」

「そうかね」

「君はわたしのことを散々変だというが変な人間が変なことをするのはおかしくはないだろう」

「たしかにそう…違うよ!君の勝手な理論に僕まで巻き込まないで」

触れたいって…?この前みたいなことを言うの?あのキス…あれはこういうことだったの?

僕は思いだして顔に血の気が昇るのを感じた。

「君はどう思うのかね?」

「どうって?」

「嫌いなら嫌いと、嫌なら嫌といいたまえ。無理強いするほどわたしは野暮ではない」

「…僕は…そもそも恋愛とか好きじゃない」

「何故」

「だって恋って…終わってしまうだろ?」

「…プッ」

笑われた!僕が正直に答えたのに、なんて奴!

「君は子供だな」

「君に言われたく無いよ!」

なんだっていうんだ一体…。

「ではわたしのことは?」

「嫌いだ!」

嫌いにきまってる…人の気も知らずになんでもずけずけと訊いてくる。

そういうところが本当にむかむかする。

そうだ、聞くまでもなく、僕はシャカに悩まされてきたんだ。

「そうか。」

「……話ってそれだけ?」

「そうだ」

「僕は帰るよ」

「うむ」

「さよなら!」

「うむ…」

僕はシャカがついてこないのをいいことにそのまま

振り返りもせずに、帰ってしまった。








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