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…シャカに初めて会ったのは、四月、雨の日だった。

桜の花もすっかり散ってしまって、

白い空から細かい雨が降っては止む…

そんな土曜の午後だった。



僕は市立図書館から帰る途中、たまたまいつもと違う道を通った。

すると向かいの道から、歩いてくるシャカに会ったんだ。

外国人なんて珍しくないのに、目を惹いたのはその、腰より長い
金の髪だった。

それが遠目にはぼんやりと光に包まれているように見えたんだ。

その明るい髪の色に対して肌がほんの少しだけ浅黒い。

そして顔はといえば濃いといったらいいのか…怖いほど彫りが深くて睫毛はラクダみたいにふさふさしていた。



別に見とれていたわけじゃない。

たった一瞬、視線を送っただけなのに。

向こうがこっちを向いたんだ。

目を閉じたまま、まっすぐにこちらに向かってきて。

それで第一声が

「…君とはどこかで逢っている気がする」

なのだ。

…とてつもなく怪しかった。

「人違いだと思います」

僕は自分が見ていたことも忘れて、慌てて去った。

隣の高校の制服を着ていたことだけ覚えている。

そう、あの時もう会うこともないだろうと思っていたのに。



次の日の朝。

僕はまたシャカに会った。

「君」

呼びかけられて振り向くとその姿が。

「そこの君」

逃げようとしても追いすがってくる。

「わたしの名はシャカ。君は?」

シャカなんて名前があるのか…苗字なのか名前なのか
まったく不明。

だいたい、高校生のくせに「わたし」ってなんだ。生意気に。

「君の名を訊いている。答えたまえ」

「僕は…ムウ」

なぜかなれなれしい。知らないふりしよう…と思ったけどついてくる!

「君は…目が見えるんじゃないか」

「無論だ」

「…じゃあどうして目を閉じてるの」

「わたしは目を開くのが好きではないからだ。」

「………」

へ…変な奴…。

僕のクラスメイト達もすごく変なやつらばかりだけど

なんか桁外れってかんじだ。

「ここの生徒かね」

シャカは校門までついてきた。

「そうだけど」

「わたしはこの町に来たばかりなのだよ。よろしく頼む」

そういうと去っていった。

何をどうよろしくしたらいいのか分からず僕は呆然と立ちすくんだ。

「いったい…」




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その次の日。やっぱり来ていた。

僕の帰りを校門で待ち伏せていたようだった。


無視しようと思ったそのとき。

「…あっ!」

僕はその姿に思わず声を上げて驚いてしまった。

後ろで束ねているのかと思ったら。

あの長い金の髪が、ばっさりと襟足で切られていたから。

「…切ってしまったの?」

「うむ。校則でな。」

「そう…」

「毛などいくらでも生えてくる」

「…うん、まあそうだけど」

…なぜかとっても残念だ。すごく綺麗な髪の毛だったのに。



…そういえば僕も中学まで髪が長かった。

シオン様は僕が髪を切ったとき、それは大変にがっかりしていたけどそれと同じような気持ちなのかな。

「僧侶の髪形にするのも良いかと思ったが」

「…坊主頭はやめたほうがいいよ。というかやめて。絶対に一緒には歩かないからね」

「ふむ。ではそうでない今は一緒に歩いてくれるのだね?」

「……」



そう、その日はだから…途中まで一緒に歩いて帰ることになってしまった。

別に家が近いというわけではないのに、シャカはうちの近くの交差点までついてきた。

そこの信号はもともと長かったけど隣にいるシャカのせいで永久に続くかと思うほどだった。

僕はとにかく早く帰りたかった。

こんなに長く他人と一緒にいるなんて、はっきりいって苦痛だ。

「ここで。もういいよ」

「いいのかね。迷わず帰れるかね」

「…大丈夫だよ」

それはこっちの台詞だった。

「また明日だな」

「うん、じゃあ僕は帰るから」

また明日なんて約束するのは不本意だったけど、余計なことを言っていると道を渡りそびれる。

僕はおざなりに手を振ると青信号の点滅している横断歩道を小走りに走って帰った。


幸いついてこないみたいだった。

玄関に入るときふとなにかの拍子に振り向いたら。



走る車の間にまだ彼の金色の髪が見えた。



そうだ。

…その日からだ。

僕の生活にシャカが入り込んできたのは。





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