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シャカとは色んな話をした。

こんなこと言ったら馬鹿にされるかな・・・と思うような

例えば怖い夢を見とかいうものすごくくだらない話も、

何でも大真面目に聞いてくれた。

…君はいつも宇宙やら真理やらのことばかり考えていたっけ。

僕らの目の前にはまだ夜明けの世界が横たわっていて

それは容易には立ち向かえないほど大きく

それでもまだ自分達が先まで見渡せると思い込めるほどに、

小さかった。

シャカのおかしくて、そして凄いところは、

この世界を、本気で、しかも、自分の力で変えようと思っているところだった。

そうだ、僕は君の、そんなところが、どうにもうさんくさくて、

うっとうしいくらい眩しくて、…うらやましかった。



…見上げれば君の瞳のような青い空。

ああ

そうか。

君はそれを片付けるために

…インドに帰ったんだね。

でも、どうして僕に一言も言ってくれなかったの。

僕だって少しは君の禅問答に貢献したと思ったのにな。



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君が、歴史上の偉い人や神様たちを、

まるで自分の知り合いであるかのように話すのは可笑しかった。

歴史の教科書を、君は卒業アルバムでも見るようににめくる。

僕はもうね、年表に君の写真が載ってても驚かないよ。



ギリシャの哲学者ディオゲネス。

彼の奇行を君は弁護したっけね。

「わたしがみた彼の行いは的を得ている」

「じゃあ、君は世界の王になるより、乞食でも、自由に日の光を浴びていたいと?」

「そうだ。自由さえあれば貧しさですら富となるであろう。」

「そんなの詭弁だよ。」

「この場合の自由とは精神の翼のことだ。」

そう言って君はその青い目をうっすらと開けた。

君のシャツの白い背には目に見えない翼があるみたいだった。



僕はその様子をぼうっと眺めていた。

ああ…君は…自由なんだ。

僕がとうの昔に諦めた、自由を持っている

そういうまっすぐで何も疑わないところが。

嘘や隠し事があたりまえになってしまった僕とはまったく違う。

「…ね。君がディオゲネスだったら僕は…このヘラクレイトスだ。」

笑う哲学者と呼ばれたディオゲネスとは対照的に、いつも憂いをたたえている、泣く哲学者ヘラクレイトス。

「自由がないと、きっと何をしたって悲しいんだ。」

…僕みたいに。

「それはどうかな。」

「何が」

「光と闇が切り離せないように、二つの相対する概念というものは常に表裏一体なのだよ。」

「…どういうこと…?」

「光を求めるなら闇を、聖を望むなら俗を、生を思うなら死が必要なのだ。」

「…つまり?」

「君が悲しいと思うとき、喜びがすぐそばに在るということだ。」

そういうとシャカは僕の近づいて言った。

「君は笑っていたまえ。泣くのならわたしが代わりに泣いてやる」

…どこまでも良く分からない論理なんだけど。

だけど

シャカが近い。

目が…開いている。

綺麗な青い瞳だった。

シャカはふと僕を見ると話をやめた。

「君は…そんな風だったのか」

「え…何が」

「君がだ」

「良いな」

「だから何が?」

「目に快い。」

「誉めてるつもり?」

「他になにかいいようがあるかね」

シャカがこっちに傾いてきたから

びっくりして振り払ってしまったよ。

そうしたら君はさもおかしそうに笑ったっけ…。

「何がおかしいの」

「いや…」



「さっきの話だが」

「うん」

「二人でいると」

「二人でいると?」

「悲しいことが半分に嬉しいことが倍になるというがそれはちがうな」

「え…違うの?」

「君といるとだな」

「うん」

「悲しみがゼロでうれしさが100だ。」

「…それ全然計算合わないよ。」

「…フッ」



…なんだか思い出したらちょっと腹が立ってきた。

君はいつもいつも僕のことを笑いものにしていたような気がする。


抽象的な議論はちっとも良く分からなかったけど

シャカといると、少なくとも悲しくはなかった。

その頃の僕にとっては不思議だったけど…そのときから君は…



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