******************* 期末テストが終わったとき、シャカは得意げに言った。 「国語はパーフェクトだ。仏教徒だからな。」 …それって本当に仏教徒だからなの…?君はまったくわけがわからない。 「でもそこまで漢字が読めるのはちょっと尊敬するかも。」 「フッ私を拝むかね」 「…だから調子にのってお経となえるのはやめてよね。」 僕に釘をされてしばし黙るシャカ。 「漢文は問題ないのだが…古文がちょっと苦手でな」 「どうして?」 「主語がない文章が延々続く上に敬語や助詞もあいまいではないか?」 「ああ、もののあはれとか…ニュアンスとか君に理解するのは無理かもしれないね。 まずは短い文章とか歌から意味を確認するのはどう?」 「なるほど。」 僕は鞄から国語の資料集を取り出して貸してやる 「ふむふむ…この歌だが前半は枕詞として『ながながし夜をひとりかも寝む』これはどういう意味だね?」 いきなりそれ?と思ったけど、有名な歌だし…。 「それは…恋仲になった男女はその…二人で寝るだろ?だからそれと比較して一人で寝る夜はとても長く感じられることだなあ、ということだよ。」 「なるほどな。ではこの『あかつきばかり憂きものはなし』というのはどうだね」 …どうしてよりにもよってそんな歌ばかり… 「だから…朝ほど憂鬱なものはないという意味。…だってほら夜に会うから…ええとその…一夜一緒に過ごしたら朝帰らなくてはならないだろ?」 「ふむ逢瀬の歌か。なかなか情熱的なことだな。」 …くっ確信犯か!? 「別段、万葉集の『あ』のところから見ているだけだが。」 シャカは歌うようにそういうと資料集をぱらぱらとめくる 「君の国の歌人は外見もアグレッシブなのだな。」 「は?」 見ると近代歌人のページの子規の髪形がモヒカンになってる。 そして伊藤左千夫がアフロヘアなわけがない。似合うが。 「こっこれ…!」 僕が驚く顔を見るなりシャカが耐え切れないといった様子で笑い出す。 「君でも教科書に落書きをするんだな」 「違…っ僕はそんなことしない」 僕じゃない…あ…思い出した。こんなくだらないことをするのは隣のミロに違いない。 多分僕が職員室にいってる間に… 「僕じゃない!クラスの子が…」 「人のせいにするとは君も往生際が悪いな」 「もう!信じてよ!!」 「他のページはどうなっているのだ」 「返してったら」 そういって資料集をとりあううちに、もみ合いになった。 シャカは僕のことを捕まえようとする 僕も逃げる。 「!」 草で靴が滑って僕が地面に倒れる シャカの体がぼくの上に乗って 僕は押さえ込まれた。 「降参か?」 「離してよ」 「嫌だ」 シャカが僕の背中に回した手が脇腹にあたって 僕は声をたてて笑ってしまった。 「あはっ…くすぐったいよ!」 顔に君の長い前髪がかかって見上げたら いつのまにか君の瞳が開いていた。 やっぱり目が青い…と思って見ていると 君の唇が僕の口に軽く触れた 今の何? 君にとっては挨拶のようなもの? ならどうして君はそんな怖い目をしてるの 「…わたしも君と会えない一日は長い。」 は?僕は君と会わないとホッとするけど。 そう言おうとしたけどあんまり真剣なので言えない。 「わたしも君と一緒に寝たい」 え…?ここで昼寝するってこと? 「ここで?」 「なに…っいいのか?」 何を言ってるのシャカ。 なぜかシャカが急にくっついてきたので 「シャカ…や…やあっ!」 僕はその勢いを利用して気合一閃巴投げをする。 幸い僕に土手の傾斜が味方した。 シャカは河原まで転がっていって。 ようやく受身をとって立ちあがった。 反撃して来るかと思って身構えたけど シャカはなんだか寂しそうな顔をして笑っていた。 「君は。まったく」 「何?」 「用心したまえと言われなかったのかね?」 「だから何が」 「無防備すぎる」 「隙があるってこと?こんなことされて」 僕は足元の資料集を拾って汚れを落とした。 確かに机の上に出しっぱなしにしておいたのは僕の落ち度だ。 「そうではない。他の男どもに触れさせてくれるなよ?」 「そんなこと分かってるよ」 僕はさっさと資料集を鞄にしまう。 シャカの視線を感じたけど 知らないふり。 「…昼間だったのがまずかったのだろうか…」 「何ぶつぶつ言ってるの?僕は帰るよ。」 「朝でなくとも君との別れはつらいものだな」 意味不明だ。これはいよいよ打ち所が悪かったのかと思って僕はシャカの頭を撫でる 幸いコブもないようだけど…。 その僕の様子をじっと見ていたと思ったら 急にシャカの顔が近づいてきて。 今度は押し付けるような…これってちょっとまった。 これは…キスだ。しかもこんな道の真中で。 そんなことされたことないのに…! 僕は必死で振り払った。 「何のつもり?これは…恋人同士の…キスだよ?」 「無論そのつもりだ。」 「からかわないで」 「からかってなどいない」 ああ、よけいに頭にくる。 「君まで僕を女の子扱いするの?」 「そうではない。わたしは…」 シャカの手が僕の腕を掴んできたから僕は重心を落としてかわすと遠慮なく膝蹴りをした。 「ぐっ」 「脇ががら空きだよ」 「…君は意外に…」 「何?」 「いや。…君は…嫌だったのかね」 「嫌だ!」 嫌に決まってる。 「…嫌か」 「あたりまえだ」 「そうか…すまなかった」 急に元気がなくなるシャカ。ほんとなんなのだ。 「…もういいってば。帰るよ」 少し傾いた日が土手を照らしていた。 ******************* next back Topへ戻る | |