○第二幕第一場

 
翌日。
 
連れ立って聖域を出たムウとデスマスクは、まずは、アテネ市内の、最近はやりのトルコ料理店でゆっくりとランチ。  
それから公園を散策。  
その途中、ムウが露店のアイスキャンディーに目を輝かしたのを見て、デスマスクは「なんだよ、あれがほしいのか?」と小銭を取り出した。二人で1本ずつ。
「子どもみたいだな、ムウ」  
冷たい氷菓子にかじりつきながらデスマスクが言うと、
「そうですか? 私にはそういう子ども時代がなかったので分かりません」  
と、ムウは澄まして嘯いた。
「ま、それもそうか。――おい、そっち、味見させろよ」
「あなたのも一口くれたら」
「分かってるよ」  
などとイチャつきながら、デスマスクは内心、『いやー、これはこれでいいわ。確かに』とかなんとか思っていた。
 
それから、マーケットを冷やかして、そのマーケットのはずれで二人に声をかけてきた気のいい銀細工屋からブレスレットを買った(そういうものの質にはうるさいムウが珍しく気に入ったので)。

 
さて、夕飯をどうしようかという話が出てもおかしくない時分になって、デスマスクはふと街角で立ち止まった。
「――で、ムウ」
「なんです?」
「これだけおごらせておいて、さあ日が暮れてきたから帰りましょうってことには、普通ならないよな?」  
デスマスクはいやらしく唇の片端を上げた。   
ムウは冷えた眼差しで、目の前の男を見た。
「そういう下世話なことばかり言っているから、言い寄ってくるのは玄人女みたいのばかりということになるんですよ、デスマスク」
「なんで知ってんだよ、そんなこと!?」  
その質問には、ムウは答えないままにやりとした。その表情に、デスマスクは鼻白んだが、すぐに気を取り直して、
「ア……アフロディーテの野郎だな!?」  
言って、精一杯の虚勢で肩をそびやかした。
「ねえ、デスマスク」
「な、なんだ?」
「このあと、なにかつまめるものでも買って帰って、アフロディーテのところで飲みましょうか。シュラも呼んで、4人で」
「なんでそうなる――」  
言いかけたデスマスクの言葉にかぶせるようにして、ムウはつづけた。
「このあいだ、アフロディーテが、『とっておきのネタがまだあるんだけど、聞きたいかい?』って言ってたんですよね。――別にいいんですよ、こなくても。そうしたら、シュラとアフロディーテと3人で楽しみますから」
「ままま待て待て待てッ!!」  
色を失ってデスマスクは、早速踵を返そうとするムウの肩を掴んだ。
「いや、おれも交ぜろ。交ぜてくれ!」  
当然の帰結だろう。  
自分のいないところでそんなことが行われたら、悪友二人に何をバラされるか分かったものではない。
しかも、それを聞くのはアリエスのムウときたものだ。なんて恐ろしい! 
そのような危険な状況を自ら招くのは、愚か者のすることだ。
 
ということで。  
早くも機嫌の直ったらしいムウとガックリと肩を落としたデスマスクは、今度は買い物をすべく、連れ立ってマーケットの方向へと、きた道を戻り始めた。


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