scene8


次ぐ日、朝早くわたしは白羊宮に向かった。
部屋に入るやいなや、ムウの瞳がわたしをとらえた。
「気分はどうだ」
ムウはそれにはこたえず、うれしそうに微笑む。
「サガ…来てくれたのですね」
「寝ていろ。そう…そのままでいい」

ムウはやつれた。
しかしそれでもやはりこの男は美しかった。
ムウは目を閉じてわたしをもとめる。
その白い首筋はいつになくわたしをそそった。

…ムウは随分と軽くなった。わたしはこみあげてくる感情をふりきるように、そのからだを奪った。ムウはややつらそうではあった。が、いつになくわたしを欲した。望みが叶えられたあとも、ムウはわたしを離そうとしない。

帰ろうとするとムウはわたしを枕もとに呼んだ。わたしの首を抱いてくちづけをし、シャツをはだけてわたしの背や肩を愛撫すると、わたしの髪に両の手をいれてくしゃくしゃにした。そしてわたしの目をまっすぐにみつめ、わたしを愛しているといった。

わたしは驚愕のあまり、しばし言葉を忘れてムウを見た。
喜びのためではない。ついぞ味わったことのない苦い思いがわたしを息苦しくした。
ムウのこんな言葉は初めて聞く。
そしてこれが最後であろうと直感した。

いくらわたしがムウのからだをほしいままにしようと、けしてこの男はわたしのものにはならぬのだ。それがなぜがわたしには腹ただしかった。

…ムウは去ってゆくだろう。
そしてそれをわたしはどうすることもできぬ。


……不愉快だ!なぜひとりの死に損ないのためにわたしがこうまで振り回されねばならぬというのだ…ええい、うっとうしい!!

わけのわからぬ怒りにかられてわたしはムウの胸をついた。
むろんかわされるはずの拳。しかしわたしの右手は柔らかい鼓動を貫き朱に染まってゆく。崩れるムウの襟首をつかんで引き寄せた。
「なぜだ!避けられぬ距離ではなかったはずだ」
ムウはわたしの腕に手をかけ半身を支えると、わたしの血まみれの拳に触れた。
「…わたしはあなたとの約束を破った・・.あなたが怒るのも当然…だ」 そう言ってムウはわたしに笑ってみせた。
「口の減らぬやつよ」
わたしが答えるとムウは笑んだまま目を閉じた。
そしてわたしの腕のなかで動かなくなった。
ムウの唇は血の味がした。わたしはムウを横たえ、上着を脱いで被せた。その深い青碧はムウの瞳に似ていた。


近くで悲鳴が聞こえ、シャカ達が駆けつけた。
シャカはわたしとムウの前でたちすくみ、身動きひとつしない。
この男はとうとう気が狂ったのかも知れぬ。アルデバランもそうとうに逆上し、壁に頭を打ち付けて号泣している。

わたしは至って冷静であった。…このバカな男たちがうらやましく思えたほどに。


わたしは騒がしくなってきた白羊宮を後にした。




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