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それからのことはよく覚えていない。 …気が付くと海辺を歩いていた。 空は雲ひとつなく、塩を含んだ風がわたしの頬を撫でてゆく。 わたしは岩に腰をかけようとして背をかがめた。 その時突然、ムウのことを思い出した。 頭が熱く、眩暈がする。 わたしはよろめいて砂地に手をついた。 …ムウは死んだ。 わたしの渇いた拳からは濃い血の匂いがする。 ムウはわたしの目の前で逝った。 記憶が鮮明に蘇る。 …ムウは… わたしの名を呼んだ。 わたしの首を抱いてくちづけをした。 わたしの背に爪をたてて傷をつくった。 わたしの皮膚に小さなしるしをつけた。 わたしの髪に、両手を入れてくしゃくしゃにした。 そしてわたしの目をみつめて わたしを愛していると言った…。 急にわたしの両眼から涙が流れ落ちた。 わたしのかたわれはおそろしく泣き虫であったから涙腺がいかれているのだろう。あきれるほど大量の涙が渇いた砂地にぼたぼたと落ちた。 以来、ムウのことを思うたびわたしの胸は火傷を負ったかのようにやるせなく痛む。 ・・それにもかかわらず、その面影はわたしの記憶に焼きついたまま、 いっこうに消えてはくれぬのだ。 フ・・・・・・サガよ。 ムウはやはり残酷な男だったではないか。 fin. |