「サガはこのわたしを葬ろうとしたのだ。わたしがこのからだを支配すれば奴の最も大切なものが犯されるからな」
「まさか…また謀反を?」
ムウは丸い眉を寄せた。
「フ…おまえもめでたい奴だな――サガ、あの男は女神のためでもなければ、
己が罪を償うためでもない…ただ、ひとりの人間を傷つけたくないがために、
このわたしもろとも死のうとしたのだ」
「…な…」
ムウの大きな瞳がさらに瞬いた。
わたしはその反応を楽しみながら言葉を続けた。

「おまえは気づかなかったかもしれんが、サガはひそかにおまえを愛していた…
少なくとも奴はそう思い込んだ…そして、わたしがおまえにまた乱暴をするのではないかと夜も眠れぬほど心悩ましていたのだ」
「バカ…な…っ!」
「そうだ…愛のために死ぬことは美しいかもしれんが、ばかげている。結局、このわたしを残してしまったのだから、サガは犬死に、いや、もっと皮肉なことになった。そしてそれを決定的にしたのは、まぎれもなくムウ、おまえだ」
ムウはことを理解したらしかった。ショックを受けて当然だろう。
その白い顔はますます色を失ってゆく。
わたしは楽しくてしかたがなかった。

「――こうなった以上、おまえは自分の不始末の責任をとらねばなるまい?」
わたしはさらに歩を寄せた。
「わたしは罪を悔いてなどいない…が、もはや世界征服には凝りた。だから無欲にもひとりの人間で我慢してやろうというのだ。」
意を察したムウの顔が嫌悪にこわばる。
「容易いことではないか…ムウ、おまえはわたしのものになれ」
わたしはムウの肩に手をかけ、口付けた。
その落ち着いた様子にそぐわぬ強拳がわたしの腹にめり込んだが、
わたしも平然と言葉をつなぐ。

「サガという人間を生かす…これはおまえに対する聖域の令だったな?わたしを殺せぬ、ということはすなわち、わたしを受け入れるということだ・・・違うか?」
「……」
「ムウよ、契約をしようではないか。おまえはあれだけサガを狂わせた男、相手にとって不足はない。誓ってもいいが、わたしはこうみえてもあのサガよりははるかにまっとうな人間だ。聖域にはまだサガが、わたしが要るのではないか?わたしがそのかわりをしてやっても良かろう。…悪い話ではあるまい?」
「…やむをえないでしょう」
その女のような顔に似合わぬ低い声でムウは答えた。

「ただし――条件がある。わたしはおまえのからだを欲しい。それだけだ。愛情などはいらぬ…わたしが求めるのはサガが最も嫌った肉体だけのつながりだ。わたしはサガが一命をかけて貫いた信念を一夜にしてくつがえし、踏み躙ってやりたい。このサガの肉体でな。そしてそれをサガの供養にしようと思う」
「わかりました…それであなたの気が済むというのなら」

わたしはムウの髪をつかむとその唇を深く奪った。
今度はムウは抗わなかった。
平静を装っているが、この屈辱に震えているのがわかる。
…ひと思いには責めぬ。せいぜいサガの精神が完全に消えるまで存分にいたぶってやろうと思う。

…サガよ、この気取った男がおまえの嫌った肉欲に負けてゆくさまをとくとみるがよい。…いまは憎しみに燃えている瞳が快楽に涙ぐむとき、しっかりと閉じられたこの唇が耐え切れずに喘ぎをもらすとき…!おまえの負けだ、サガ。わたしはおまえが蔑む欲望でムウの神殿を蹂躙する。これはわたしひとりの凱旋ではない。わたしの信ずるものの勝利だ。ムウの心にいるおまえをわたしはムウ自身の手によって追い払わせてやる・…!




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