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はたしてその夜、ムウは現れた。 「よっぽど逃げよう隠れようと思いましたが…」 ムウは月明かりをひどく嫌がった。が、わたしの企ては功を奏した。 青い光のなかで情を交えるのはなかなかに趣きがあり、ムウのそつない物言いも、切なげな声も改めて堪能した。それらはわたしの気にいったが、だからといってわたしはムウを丁重にいたわったりはしない。 奴はあれほど清楚なつくりをしていながら、口では言えぬような乱れ方をする。だが、どんなに醜態をさらしても翌朝には何事もなかったようにすましている。…信じられぬ奴よ。 その朝、ムウは疲れているのか、目が醒めてもまだ起き上がらずにいた。 わたしが抱き寄せてもまだのびている。 わたしはふと、穏やかな気持ちになり、ムウの髪を撫でた。 ムウは驚いたように顔をあげ、わたしを見た。 その刹那、瞳に浮かんだ意図をわたしは理解した。 ・・サガの面影を見ようとしているのか…おまえに恋し、狂ってしまったわたしの愚かなかたわれを・・ わたしは腹が立った。 このわたしを一瞬でも不快にさせたこの男に、そして、そんなつまらぬことにとらわれたわたし自身に。 なんでもよいからこの男を逆上させてやりたかった。 その日の夜、わたしはムウを居間に呼ぶと一枚の紙切れを渡した。 それはサガの、ムウへの手紙だった。死ぬ前に奴は、日記も手紙もすべて焼いたが、それだけは本に挟まれて残っていたのだ。 処理しきれないほどに奴は悩み、書いては考えた。 …それほどに想われていたことなど、この男は知らぬはずだ。 ムウは受け取ると、黙って目を走らせた。 わたしは、どんなささいな変化も見逃すまいとこの男を観ていた。 ムウは新聞でも読むかのような単調さでそれを一読すると、顔をあげてわたしをみた。顔色一つ変わってはいなかった。 「…いまさらこのような・・」 そう言うとムウは手紙を机に伏せた。 「そうだ。わたしにはなおさら不用なものだ」 わたしはこの、切り札とも呼びたかった紙切れを机上の灯りにかざして燃やそうとした。 と、その刹那、炎がゆらぎ、手紙はわたしの手から消えた。 「…これはわたしへの手紙。あなたには関係ないだろう」 そういうとムウは刺すような視線をわたしに向けたたまま、音をたててその手紙を真っ二つにした。そして細かく裂いて、その能力で塵にし、空間に消しつぶしてしまった。 わたしは驚き、次の瞬間にはこの男を心底欲しいと思っていた。 昂然と顔を上げ、まっすぐに立つムウからは普段の柔和さは消えている。 その瞳はさらに燃えるような緑になった。 固く結んだ口元さえわたしを誘うようだ。 この男を組み敷くには、全力で挑まなければならなったが、それはなんとも心地よかった。 もみ合ううちに闇になった。 暗がりの中でわたしはなにか濡れたものに触れた。 それが血であるか涙であるか分からぬほど、わたしもムウもひどく怪我をした。 |