朝、わたしの部屋は半ば崩壊し、床や絨毯は血だらけであった。
わたしの傷はかなり深く、朝になっても癒えきれぬとみえて、ひどく痛んだ。
さすがはアリエスのムウ、文句なく致命傷ばかりだ。

しかし当の本人はさっさと自分の宮に戻ってしまっていた。

「…サガよ、あの男の、どこが優しいのだ」
…まあよい。
「今夜はしかえし、といくか」
わたしはひとり笑んだ。


その日は退屈な儀式とやらが女神神殿で行われていた。
皆、真面目くさった顔をして参列している。
…ふん、こういうことはサガに任せてしまおう…そう思ってわたしは眠りについた。

気が付くとムウがわたしの枕もとに立っていた。
教皇正規の補佐役のわたしが儀式に出てこないことで腹を立てているらしい。いかにも怒っているというその顔はどこか他愛ない。わたしは妙に気持ちがはずんだ。
「なにをそんなに怒っているのだ」
「あなたがいなくてどうするのですか!」
「…わたしは病気になった、ことにしよう」
「だめです!昨日のことであなたがとても…」
「なんだ?」
「…元気がよかったことは聖域中に知れています」
この男、こんなつまらぬことで頬を染めるのか。わたしはますます楽しくなった。
「急な病なのだ」
ムウは黙って敷布をはがす。わたしの裸の胸に数箇所、大きな傷跡が口をあけていた。ムウが息を飲んだ隙に、わたしはムウを組み敷いた。
「…夜まで待てぬ…」
ムウはもがいた。しかしがっちりと首をおさえられてしまって動けず、くやしげに唇をかむ。
「儀式とわたしの命とどちらが大切だ」
「儀式です!」
わたしは大声で笑った。こんなにせいせいした気持ちはひさしぶりだった。
わたしはムウを放してやると、サガの法衣をまとった。重厚な色合いとすっきりとした意匠の見事な衣。これはわたしにしか着こなせぬ。
ムウの視線を感じて振り返る。わたしの行動をはかりかねているらしい。
「…ムウ、これは貸しだぞ。」


その晩、ムウはわたしの言いなりになった。
わたしがいかに楽しい思いをしたか、どんなに言葉を尽くしても語ることは不可能だろう。




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