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* * * 「とうとう弟子を引っ張り込んだか」 「乙女座…!」 男は無遠慮に天蓋を開く。 「下がれ。」 噛み付くような形相の教皇に失笑しながらも乙女座は言葉を続けた。 「また来るといったはず。そもそも…君があれしきで満足したとは思えぬのだが」 「…黙れ!」 「今さら何を…」 そう言って笑う乙女座を前に、 教皇は暗い気持ちに胸をふさがれた。 …確かに「今さら」…なのであった。 そうだ。この閨には…もう数え切れないほど この男は通ってきているのだった。 だがこの今朝のこの耐えがたい嫌悪感はなんだろう。 ついさきほどまでシオンとともに、満たされた時を過ごしたからだろうか。 同じ空間で、全てを裏切る己自身に…酷く悲しく惨めな心持であった。 「…聖衣をつけたままでは…やめてくれ」 「脱いでほしいなら早く言いたまえ」 「そんなわけがあるか!」 まったく、聖衣の乙女に謝れと罵りたくなる。 乙女座は素直に聖衣のパーツを取り、彼女を部屋の外へ飛ばした。 シオンによって丁寧に着せられた寝巻きが剥ぎ取られ 男の指が、舌が這いまわる。 …たかだか数分弄ばれるだけでじっとりと快楽が蓄積してゆく。 自分は、この男にとって恰好の獲物なのだろう。 どれほど逃げ抗っても容易に追い詰められ、捕らえられ、屠られる。 今回ばかりは…口惜しさよりも悲しみに疲れ果て、声を殺す気力もなかった。 だが。 だからといって中心を捕らえられたときの悲鳴のような声は…なんであったのだろう。 教皇は羞恥にわなないた。 しかしそれははからずも乙女座を煽ったらしく、 常のような執拗な愛撫のかわりに、 彼にしては性急にその身を沈めてきた。 「は…あ…んっ」 声を禁じていなかったためか、己の息が深い悦びの色を帯びていたことに、 教皇は愕然とした。 胸をふさいでいた言いようのない息苦しさが 無理矢理奪われることへの嫌悪ではなく、 むしろ切望であったのだと思い知らされたからである。 自分は確かにその楔を待ち焦がれていたのだ。 混乱と絶望と苦痛と、それより激しい快楽のなかで理性は急速に遠のいてゆく。 …堕ちてゆく…だがその落下の甘美なこと。 教皇は、今や堪えることを完全に放棄し、ただ感覚のままに声をあげていた。 その嬌声を耳にしているためか、 いつもであればなんやかやと貶めるようなことばかり口にする乙女座が、 珍しく無言で動いている。 …さすがに呆れたか。 そんなことがチラと脳裏をかすめたが 次第に激しくなる律動と追い立てられる快楽にかき消された。 ひときわ高い波が押し寄せて、二人は砕けた。 乙女座がその瞬間に自分の名を呼んだようだった。 しばらくして身を起こすと、男はいまだ両の腕を立てて、自分を見下ろしていた。 醜態をさらした己をあざ笑っているかと思ったが 意外にも深刻そうな眼差しであった。 窓からの光で、青い瞳がわずかに揺れているのが分かる。 何故か居心地が悪く、教皇は目をそらした。 「…気が違ったとでも思ったか…」 「……ムウ」 「帰るがいい!」 長く感じられたその沈黙は一瞬であった。 気がつくと乙女座はいつものように酷薄そうな笑みを浮かべている。 扉の向こうへと視線を転じると乙女座は言った。 「…君の可愛い弟子がたった今去ったようだ」 「なっ…」 確かに気配を消してはいるが、廊下を遠ざかってゆく小宇宙は…シオンのものだった。 まさか帰らずに…外にいたというのか?しかし何故… 「君は知っていて…!」 「さあな」 呆然とする教皇に乙女座は楽しくてたまらないといったふうに笑った。 「行儀が悪いところを知られてしまったな」 「……!」 あまりの事態に言葉も出ない。 自分をあざ笑う男の声が乾いた心に響く。 「いっそ…」 「何だね」 「殺せ・・!」 「最高の賛辞だ」 乙女座は満足げにそう言い残すと去った。 なんと…なんということだ… いつか知れる日が来るかもしれないと恐れてはいたが …あまりの間が悪さに笑いさえこみ上げてくる。 だが彼には呆けている暇もなかった。 女神に拝謁する時間が迫っていた。 * * * next back |