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校庭の桜は満開だ。 でも僕は見上げる気力もなかった。 * * * 今朝「ペットにしてください」って言ったとき サガ先生は一瞬、明らかに困惑した。 でも次の瞬間にはいつものように綺麗に笑って、 「少し時間をくれないか」と言って僕に背を向けた。 馬鹿なことを言ったのは良く分かっていた。 だからその背中に拒絶されたような気がして、 僕は「はい」としか言えずにそのまま部屋から出てしまった。 昼休み。 準備室は鍵がかかっていた。 中に居るみたいなのにノックをしても開けてくれない。 僕は向かいの校舎の屋上に昇った。 ここからなら準備室が良く見える。 先生の姿がちらと見えた。 珍しいことに誰かと電話しているみたいだった。 僕が少し安心したのもつかの間、先生は窓際までくると、 こちらを仰ぎ見て、滅多に閉めないカーテンを閉めた。 絶対、僕に気づいたはずなのに…。 覗き見なんてはしたないことをしたからだろうか。 でもそれだけが原因とも思えない。 やっぱり僕があんなことを言ったから? …先生は時間をくれと言ったけど その答えが…これなの? サガ先生は頭の悪い言動は大嫌いなんだ。 僕はつくづくとりかえしのつかないことをした。 謝りたいし、取り消したいと思った。 でも良く考えたら僕はサガ先生の携帯の番号すら知らなかった。 だからさっき、僕は授業が終わるとすぐに準備室に行った。 でもサガ先生はもう帰った後だった。 講義室にも居ない。 そのとき教室を掃除してた女の子たちの甲高い声が耳に入った。 「ねーサガ先生結婚してたの知ってた?」 「ええーショック!憧れてたのに!!!」 「だいぶ前からって話よ」 「ホモって噂は嘘だったのね」 「偽装よ!きっと」 目の前が真っ暗になった。 僕はそのまま階段を降りて、校庭に出た。 いい天気だ。 皆掃除の片付けで忙しそう。 僕は人の流れを避けてただただ歩いた。 「よう。優等生が掃除サボりか?」 体育館の裏を歩いていると、聞き覚えのある声がした。 見れば体育倉庫を占領して、あの不良先輩たちがたむろしていた。 「暇なら遊ぼうぜ」 デスマスクだ。 「…いいよ」 僕はまっすぐ、倉庫の入り口に向かった。 そこではじめて、上履きのまま歩いてたことに気づいたけど もうどうでもよかった。 僕がベストを脱いでシャツも脱ぎはじめると、デスマスクは慌てて引き戸を閉めた。 意外に神経質だ。 「おどろいたな…」 「どう…する?」 ぼくは半分脱きかけのまま上目遣いでデスマスクを見た。 サガ先生にそう教えられていたからだ。 「ケッ…まるでさかりがついた猫だぜ」 そう言うデスマスクこそ、ゆるく履いたズボンの前をみっともなくふくらませてる。 「…乗れよ」 体操用マットの上に仰向けになると手招きした。 薄暗い倉庫の中、窓からの光がマットを照らしていた。 僕はシャツを着たままデスマスクにまたがってベルトを外した。 さすがにいきなりだったから裂けるように痛かったけど、すぐに中は適応してゆく。 この男、あのときわざわざ机に縛られた僕を剥がして向かい合わせた。 顔を見ながらするのが好きで、左寄りの裏側が弱かったはず。 沈めたまま骨盤をゆっくり揺らすとデスマスクがのけぞった。 「おまえよく…そんな…うおっ…」 そう、僕は良くしつけてもらったの。 …どんなに揺すっても背はぴんとしたままでないといけない。そうでないと美しくないから。 脚はひらきすぎないように。ふくらはぎに力が入る位置を確保すること。 上下させるときにも締めたり緩めたりして、スライドするときは腰を押し付けて。 常に相手を見なさい。そして自分がされたらたまらないだろうことを考えながら動くんだ… サガ先生に教わったとおり我ながら良く再現出来てる…もうなんにもならないのに。 「う…く…っ…畜生っ」 デスマスクは随分良さそうだ。 息も上がってきてる。 そろそろかな。 僕には焦らしたり追いたてたりする余裕があった。 でも胸のなかが内側からパリパリと音をたててはがれてゆくみたいで何も感じない。 ああ…こんなふうに気持ちと身体がバラバラなときどうするんだっけ… 目を閉じるとサガ先生の声が聞こえる。 …どうした…?つらいのかい? そんなときこそ笑顔だ そう…いい子だ… 僕はようやく、笑うんだ、と思い出した。 でもやっぱり僕はおかしくなってるみたいだ。 笑いながら、涙が出てくる。 そのときモバイルの大げさなシャッター音が響いた。 「凄い絵が撮れたよ」 アフロディーテだ。 「さすが優等生…録画もしていい?」 承諾もしないうちに電子音が鳴る。 泣き笑いで腰を振ってる僕はさぞ滑稽に映るだろう。 でもそんな僕を叱ってくれる人はもういないもの、どうだっていい。 「…勝手にしたら」 少し腹が立った僕はデスマスクを強引に追い詰めた。 デスマスクは口汚く僕を罵りながら、たくさん出した。 腰を上げるとすぐさま後ろから黒髪の…シュラが入ってきた。 冷静な顔をしているけど激しい。やっぱり後ろが好きなんだ。 背をそらして腰を高くするとたまらないらしく、僕の中で暴れてる。 デスマスクとシュラは交互に、一緒になって何度も僕を犯した。 髪の毛も、顔も、シャツもネクタイも…上履きまでぐちゃぐちゃだ。 汗や精液はマットにも大量に染みている。 これどうやってクリーニングするんだろ、僕はそんなことを心配していた。 昼休み、よく僕は屋上から飛び降りなかったなと自分で感心したけど、 飛び降りてたほうが良かったかも。 幸い、二人とも僕の様子なんて気にしてなかった。 けどひと通り撮り終えたアフロディーテが歌うように言った。 「ほんとうに凄いね。これサガ先生が見たらなんて言うかな」 屍みたいだった僕の心臓がドクンと大きく鳴った。 サガ先生が見る…訳がない…と言い切れない。 見て欲しくなんかないのに嫌なのに体がぎゅうっと反応する。 アフロディーテはそんな僕の顔を見ながら、シャッターを切りつづける。 「…やめ…」 今更抵抗したってデスマスクたちを煽るだけだって分かっていてもダメだった。 カシャリ、カシャリと音がするたび、馬鹿みたいに体が熱くなる。 強引にされるのまでが急に良くなってきてしまった。 このままだと…だめだ… 「あっ…や…やあっあ」 「ようやくきやがったか」 「…きつい」 デスマスクとシュラの動きが激しくなる。 アフロディーテがからかうように何枚も撮る。 もう鞭打たれたほうがましだ。 体がおかしくなる。 「いや…ああ…あああ!…い…く」 結局大きな声を上げてしまって、デスマスクたちを喜ばせてしまった。 品のない言葉まで口にしてなんて恥ずかしい。 アフロディーテは大きく息をする僕のほうに来た。 唾でも吐かれるのかと思ったのに 彼は僕の前で膝を折ると「何があったの?」と聞いてきた。 僕の話を聞いたアフロディーテは 「ゲームオーバーだね」と笑った。 「え…?」 何を言ってるのかよくわからない。 「だってそんな台詞、負けを認めたも同然でしょう?」 「負けとか…僕はそんなつもりじゃ…」 「君の心づもりなんて関係ない。遊ばれてたの」 「……」 「だいたい8つも下の子供に本気になるわけないじゃない」 一番気にしてることを言われた。 「…それは…つまり…」 「捨てられたんだね」 僕は言葉もなかった。 デスマスクたちまでが黙って僕の様子を見ている。 アフロディーテもサガ先生の結婚のことは知らなかったみたいだけど、 政治的な理由であれば、考えられなくもない、むしろありうる話だと言われた。 僕は反論する気力もなく呆然と聞いていた。 僕は…遊ばれて、面倒になったから捨てられた。 そう考えれば全てのつじつまが合う。 あのとき背を向けた先生の背中が 何度も何度も思い出された。 涙は出てこないのに立ち上がることもできない。 「かわいそうに」 そういいながらアフロディーテは僕の髪の精液を拭いてくれた。 こんなときでもはっとするくらい綺麗な人だ。 「ほんとうに大人ってズルいよね…」 アフロディーテが少し寂しそうに言った。 その言葉には嘘はないように聞こえた。 もちろんあのときだって…さっきだって一番酷いことをしたこのアフロディーテを 忘れたわけじゃなかった。 けど、そんなふうに優しくされて僕は限界だった。 アフロディーテのレースのハンカチが僕の涙を次々と吸っていく。 「ねえ」 アフロディーテは手を止めると、やさしく囁いた。 「…復讐したくない?」 「…僕が?」 復讐…僕には遠い言葉だ。 正直、そんな無駄なエネルギーは僕にはもうない。 「そんなことに…何の意味があるの…?」 「サガ先生に分からせてやるのさ。君がどんなにつらかったか」 僕は少しだけ心動かされた。 「でもどうやって…?」 アフロディーテは真面目な顔で僕を見て、はっきりと言った。 「アイオロスと寝るんだ」 「アフロディーテ!いい加減にしろよ」 デスマスクが怒ったように口を挟んだ。 シュラも無言で首を横に振る。 「うるさい黙れ!」 しかしアフロディーテの噛み付くような一喝に二人は黙ってしまった。 僕は当然アフロディーテの側についた。 「アイオロス…体育科のあの先生?」 「そう。サガ先生はあの人にだけは本気でキレるから」 二人は友だちなんだろうか。まるでタイプが違うのに。 「あんな真面目そうな人…僕なんかと寝るかな」 「泣けば大丈夫。かんたんだよ」 アイオロスはこの用具室の責任者だから、 ここにいればいずれ見つけられるとのことで、 僕は縄跳びの縄で手足を縛られて放置された。 保身のためだろう、デスマスクとシュラも結局アフロディーテの話に乗った。 でも「復讐したいのはおまえだろ?」とぶつくさアフロディーテに言うデスマスクの言葉が 僕には少しひっかかっていた。 「ある程度仲良くなったらゴミみたいにポイって捨てればいいの」 アフロディーテは簡単にそう言ったけど、 サガ先生が僕にそれをしたということがひどく悲しかった。 これからのことでサガ先生が苦しむのかな。僕が…苦しめるのか。 そう考えると耐えられない気がして涙が零れた。 でももう後には引けなかった。 待っている時間は長かった。 たとえここで僕が縊れて死んでももう誰も悲しまない。 その事実が僕を妙に落ち着いた気持にさせた。 アイオロス先生が鍵をかけにきたのは日が落ちてからだった。 反応は予想通りだった。 「誰がこんな酷いことを!」と言いながらすぐ僕の縄を解いてくれた。 でも僕の中にねじ込まれた縄跳びの持ち手を取り出すのにてこずった。 「あん…」 と僕がわざと甘い声をあげると顔を赤くした。 真面目そうに見えて、やっぱりサガ先生の友だちなんだな。 「断じて犯人を追及する」 「やめてください…こんなことが知れたら僕は生きていけない」 「しかし」 「先生…僕…もう…忘れたいんです」 そのへんはうそじゃなかった。 僕の様子に先生は分かりやすく動揺している。 確かに簡単だった。 「ダメだそんな…」と口ではしきりに言ってはいたけど、 胸に縋ったらぎゅっと抱きしめてくれて僕は声をあげて泣いてしまった。 アイオロスは優しくてあたたかかった。 目がキラキラしてた。 僕はそんな真剣さが直視できずに、目を閉じた。 ただし終わってからのうっとうしさは予想外だった。 「つらいことがあったら抱え込むな」とか、うんざりだ。 ほんとうのことを話したらひっくりかえるよ。 「一緒に乗り越えよう」、とか噂どおりの熱血ぶりだった。 僕の嫌いな根性主義。 まるで根拠がないのに馬鹿みたい。 でも僕にはその暑苦しさが少しだけ羨ましかった。 ちゃんと学校に来るように約束させるあたり、アイオロスはどこまでも先生だった。 「学校は嫌だけど、先生に会いに来ます」 そう言ってようやく帰してもらった。 * * * 帰りついたとたん僕は玄関に倒れてしまった。 体中がギシギシと痛くて、眩暈がして、しばらく動けなかった。 やっとの思いでシャワーを浴びても、匂いが取れてないような気がして気持悪い。 僕は何をやってるんだろう? こんなに馬鹿なことばかりして…。 早く報いがくればいいと思った。 次の日の昼、学校を休んだ僕をアイオリアが訪ねてきた。 「兄さんが…大変なんだ」 まさかアイオロス先生、昨日のことを弟に話したのか。 …同じクラスなのに面倒なことになりそう…僕は嘆息した。 「ああ…うん…僕のせい…ごめん」 「何があったんだ!」 「寝たの」 「何?」 「アイオロス先生と」 「兄さんと…寝た…だと」 「そうだよ」 アイオリアはまだ呆然としてる。 「分からない?セックスしたの」 「バ…バカな!」 アイオリアは真っ赤になって僕にくってかかった。 「み、認め…ん…兄さんがそんな…」 「別にたいしたことじゃ…」 そういったとたんアイオリアが僕を殴った。 いきなりだったから僕は部屋の隅まで転がった。 口の中が切れた。 「何をする!」 僕は怒って顔を上げた。 アイオリアは黙って肩を震わせていた。 「昨日…兄さんは親友の結婚の立会を頼まれたって喜んでた。 けど今朝の電話で急に顔色を変えて、死んで詫びるって大騒ぎさ…」 「…電話?」 嫌な予感がする。 「サガ先生からだよ。兄さんとは親友同士なんだ」 アイオリアはなぜ僕のところに来たの。 「まさか結婚…て」 「サガ先生と…おまえのだよ」 次 |