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翌朝その部屋に戻されて、また別の男たちが来た。 歳は二十代半ばくらいか、昨日の子達に比べたら、だいぶまし、いやむしろ言うならば上手な、 職人めいた人たちだった。 いったいどんな人選なのか、本当に想像もつかない。 朝食のとき、サガ先生がデスマスクたちに出した指示を僕はようやく知った。 「一日最低二回、ムウに若く健康な男を与えること」 しかも「二名以上が望ましい」とまで言われたらしい。 サガ先生は僕がそのくらいしないと満足しないほど淫乱だって思っているみたいだ。 …僕はそんな子じゃないのに…。 そう思いながらも僕は大勢の相手をするのに早くも慣れてきていた。 呼吸のタイミングや力の抜き加減、無理矢理入れてくる人のあしらいかたとか…。 嫌悪感は残るけど、苦痛を減らすことはできる。 快楽は…ないと言ったら嘘になる。 むしろ人肌に慣れてしまった今、一人の時間がたまらなく長い。 何もできないまま寝かせられているのだから仕方ないのかもしれないけど…。 加えて今日はやけに静かだった。 人の気配がない。 皆学校なのかもしれない。 今日の服は誰の趣味か知らないけどアラブ風のヴェールに金色のラメラメのついてる褌だ。 うつぶせにされたお尻の上あたりに、その飾りの簾が触るか触らないかくらいに下がってて それが呼吸のたびに僅かに揺れて、ぞわぞわして熱がくすぶる。 僕は腰の奥がうずくような違和感の原因を考えた。 …やっぱりまだあの卵が一つ残ってるんだ。 あれが入ってると僕はどうにも理性が飛んでしまう。 気のせいか、シーツに胸が触れるのもなんだかたまらない。 「はあ……んっ」 僕は切なくてため息をついた。 確かに、一瞬、誰かに来て欲しい…と思ったのかもしれない。 「おまえなんつー格好…」 でもそのとき入ってきたのはミロだった。 「ミロ…!」 「監禁されてるっぽいってのは本当だったんだな」 「良かった…これ…助けて…」 「ちょっと待ってろ」とミロは僕に近づくと足枷を外してくれた。 でも早く手枷も外して欲しいと待っているのに足元から動かない。 「なあ…ムウ…そのまえに…さ…」 顔は見えないけどミロの息が上がっているように思える。 「…ね。ちょっといいだろ?」 「ミ…ロっ…あん!」 僕のそのままうしろから入ってきた。 「っおおお…にゅるってはいっちゃったぜ…あああっ…中が…凄…おまえ…おまえ最高!」 ミロ最低、と僕は思った。 でももっと最低なのはそんなミロにめちゃくちゃに衝かれて気持よくなってしまった僕。 二回目でいい加減にやめてもらったけど、ミロは不満げだ。 「だっておまえ全身で、挿れてくれ、って言ってたぜ?」 「言ってない!」 何しに来たんだまったく… 「ついでに…中の卵も取ってもらえる?僕がこんなにおかしいのはそのせい」 「卵?そんなのなかったぜ?」 「え…」 ミロに部屋の隅のボウルにある個数を数えてもらった。12…ということは。 体の奥が痺れるような感覚は、そのせいじゃないのか…僕は愕然とした。 「何が気に入らないんだよ。おまえの中エロくてよかったぜ」 「…黙ってて」 ミロに首の拘束を外してもらったけど、ショックで起き上がれない。 僕はとうとうおかしくなっちゃったんだろうか…。 頭がくらくらする。 「しかしサガ先生、そんなに病気が大変なのかな」 「は…?サガ先生の…病気?」 確かにサガ先生の趣味はちょっと病的だけれど… 「おまえこんなことして…ひょっとしてお金が足りないとか?」 「何…の話」 「いやさ、おまえは居なかったけど、俺は見ちゃったからさ。心配で。サガ先生凄かったんだぜ。 だって、血をグバアッって吐いて、ドシャアって頭から倒れて、もう血だるまなのに『何でもない』とか言ってさ…アイオロス先生は教師の鏡って誉めてたけど、俺は正直…。」 「…サガ先生…が…倒れたの!?」 「ええーっおまえまさか知らないの?一昨日救急車で運ばれたんだよ」 信じられなかった。一昨日といえば僕と会ってすぐ? 「それで…今…どこに?」 「パラス・アテナ病院だよ。今日あたり手術とか…」 僕の目の前がグルグル回る。 でも不思議にどこか一箇所がとても冷静だった。 「ミロごめん借りる」 僕は半ば脱げてるミロのズボンとシャツを奪った。 「え??…これ?」 ラメ褌を手に呆然としている半裸のミロを残して、僕は部屋から飛び出した。 ついでに靴も借りた。 ずっと寝ていたから平衡感覚がおかしくて、階段で何度も転びそうになる。 それでも僕は急いで地階に降りた。 ここがどこだか知らないけどミロが抜け出して来られるのだから 学校からそうは遠くないはず。ならばあの病院も近い。 車道に走りでた僕の前に派手なブレーキ音とともに銀色の大きなバイクが止まった。 車体にはサジタリウスと書いてある。 「乗れ!」 アイオリアだった。 僕は飛び乗って背中につかまった。 「君バイクなんて…」 「兄さんのだ」 「パラス・アテナ病院分かる?」 「ああ」 僕に汗臭いヘルメットをかぶせると、アイオリアはエンジンをかけた。 「しっかりつかまってろ。飛ばすぞ」 けたたましい音をたてて車体が走ってゆく。 いつもふざけてばかりいたのに意外にたくましい背中だった。 こんなとき、居てくれて本当にありがたい。 アイオリアと一緒だと心が強くなる気がする。 僕は改めてぎゅっとしがみついた。 ほどなく病院に着いた。 アイオリアは正面玄関で僕を降ろし、 すぐに走って行こうとした僕を引き止めて何か手渡した。 「これ…」 首輪の鍵だった。 「兄さんのジャケットにあった」 アイオリアは僕をじっと見ている。 「…要らない」 「…そうか…」 僕たちは黙って頷きあった。 受付によればサガ先生はやはり今日が手術日のようだった。 手術室に向かう渡り廊下の隅に、アフロディーテが立っていた。 「アフロディーテ!」 アフロディーテは僕を見て少し驚いたようだった。 でも彼が泣いていたから僕はもっと驚いた。 「触るな!」 僕の手を振り解いて、アフロディーテは背を向けた。 その華奢な肩が震えていてびっくりするほど彼が小さく見えた。 「僕は…サガ先生のところに行くよ」 「勝手にしたら?もう…もう祈るくらいしかできないのに!」 「じゃあ……一緒に祈って」 アフロディーテは振り向かなかった。 部外者の僕たちには待つことしかできない。 何もできないし、むしろ邪魔だ。 でも…せめて近くにいたいと思って僕は部屋の前まで来た。 手術中のランプがついた部屋の前の長椅子にはデスマスクと、シュラが座っている。 そしてサガ先生にそっくりの、少し肌の浅黒い大柄な男の人もいた。 ドアの前にはアイオロス先生が仁王立ちしている。 デスマスクは僕を見て一瞬眉をひそめてから、ため息をついてポケットから指輪を出した。 その内側には僕の星座の牡羊座のシンボルマークが彫ってあった…。 ああ…サガ先生…! 僕はサガ先生の…サガ先生は僕の… 急にあとからあとから涙が流れてくる。 「そんな泣くなよ。皆も悲しくなってしまうだろ?」 アイオロス先生が僕の頭をポンポンと叩く。 「サガはおまえにいい子で待ってて欲しいんだ。約束したろ?『いついかなるときでもしたがう』って。」 そう言うとアイオロス先生はいつものように笑った。 なんて強い人だろうと僕は思った。 その後、手術が終わるのを僕たちは待った。 ひたすら待った。 その間アイオロス先生は彫像のようにずっと立っていた。 それが僕にはとても頼もしかった。 ぽつぽつと聞いた話によると、サガ先生は持病の胃潰瘍が急に悪化したらしい。 出血量が多く大変な状況だったと知った。 今日は初日に続く二度目の手術だという。 僕にどうして知らせてくれなかったのだろうと思っていたけど、 先生が倒れた直接の原因は…僕じゃないか…。 「…俺たちだって悪いんだぜ」 顔色を変える僕にデスマスクが言った。シュラも頷く。 「サガは昔から繊細な奴だからなあ!」 皆がいっせいにアイオロス先生を見た。 「いや…サガは…兄は弱みを見せたくないとかどうせそんなくだらん理由だろ…」 隅で黙っていた男の人が投げやり気味に言った。 カノンと名乗ったその人はサガ先生と声までそっくりな双子の弟さんだった。 「初めまして…僕はサガ先生のペットのムウです」 「…ペット?」 「はい。これ首輪」 カノンはしばらく沈黙して「兄が迷惑かけてます」とだけボソリと言った。 「確かにサガは常識にとらわれない男だ。それはとても勇気がいることだし、大人としてかっこいいんじゃないかと、先生思う」 アイオロス先生はもう一度注目を浴びた。 そんな話をして、うろうろと歩き回って、じっと座って。 どれだけ経った頃だろう。 ありがたいことに手術は無事終わった。 サガ先生は呼吸器を付けた状態で、ベッドごと運ばれていった。 病室を確認して僕は早速、渡り廊下に戻った。 アフロディーテはまだそこで日が沈んだ外を見ていた。 「そう…死に損ねたの」 僕が伝えるとそれだけ答えてさっさと帰りはじめた。 背後からデスマスク達が合流する。 「生存確認終了」とシュラがつぶやいた。 アイオロスが連絡したのだろう、向かいからアイオリアとブラウスを着たミロが現れた。 「サガ先生、助かったんだって…」 「うん…」 「良かったな」 「…うん」 「ところで俺の服さ…」 「さあ、おまえたち帰るぞ。今日のところは面会謝絶だ!」 背後から僕たちをなぎ倒すように、アイオロス先生が戻ってきた。 そして歩きながら僕の襟首を掴むと「ペットの面会は想定外らしい」と言って、 病棟に押し戻した。 元凶の僕なんかが居て、サガ先生の病状がさらに悪化しないかと心配だったけど、 「今更大丈夫だ」と言うカノンと、先生が眠る病室で待った。 サガ先生が目を覚ましたのはその日の夜だった。 言葉は喋れないみたいだ。けど先生は僕の顔を見て微笑んで僕の手を握った。 左腕は点滴の管だらけだったけど、僕は促されて、その手の薬指に指輪を嵌めた。 「サガ先生、ごめんなさい…先生…僕…」 先生の手が強く握り返す。僕はしばらく涙が止まらなかった。 続き |