花影



夜。
処女宮の庭に人影が二つ在る。
女神を迎えた聖域の喧騒も、祝宴と葬儀を終えて次第に静まりはじめていた。
先ほどようやくムウはシャカに真相を話り、二人は和解したかのように思われた。

「しかし君があの時とった行動は・・・」
ムウは不満そうに口を開いた。
「まだ根に持っているのかね」
「処置としては最悪だった。誰が張本人の元に戻すか。知らなかったとはいえ、最悪だ」
「そうか」
シャカの気のなさそうな返事にムウは怒りがふつふつと湧き上がった。
「結果論だ、とでもいいたげだな」
「結果からといえば、君はやはりわたしに感謝するべきだ」
「なんだと!?君は・・・」
わたしがどれだけ泣いたかも知れずに・・・という言葉をムウは慌てて飲み込んだ。
こんな無神経な男のために律儀に絶望までした自分を呪いたい。
「でも君はそれすらも乗り越えてここに居るのだろう」
「・・それは・・・」
ムウは押し黙った。
「女神のご加護としか・・・」
「それは君の強さだ」
いきなり持ち上げられ、ムウは返答に窮した。
「強さなどではない・・・あえて言うなら・・・」
低く呟くようにムウは言った。
「君に一言恨みごとを言わねば気がすまなかったからだ」
「そうか」
シャカの顔が急に嬉しげに輝いた。ムウは顔を赤らめ言葉を返した。
「改めて君は謝れ」
「謝罪など一度すれば充分だ」
「ではわたしも君などにはもう謝らない」
「他に何か謝るべきことでもあるのかね」
「サガとは・・・」
そういいかけてムウは口をつぐんだ。
「あの男は究極的には正義だ」
シャカは懲りずに断言した。
「・・知っている」
「君が好いていたのだからな」
そんなことはない、といいたかったが涙が溢れてムウの言葉を遮った。
かつての仇はすでに土の下に、昔の姿のまま眠っている。
「サガの、そして皆の魂のために祈ろう」
シャカはそのまま印を組むと経を唱え出した。
あたりの草木がシャカの声に合わせてゆらりゆらりと揺れ動く。
「君に祈られたら迷って出てきそうだ」
「失敬な」
いつになく真面目なシャカに応じるように、ムウも掌を合わせた。

読経を終えるとシャカはおもむろに言った。
「これからは君は一人ではない。女神がおられる。厄介な仲間たちもいる。
そしてどんなときも君のそばに神仏がついていてくださる」
「だから神仏などは・・」
「このわたしがいる」
シャカはムウに顔を寄せた。ムウはその意図を測りかねて言葉を失った。
「いつでも拝みたまえ」
「・・断る」
やはりそれか、とムウは溜息をついた。
しかし頬が緩むのを押えきれなかった。
ムウは座を崩し、昔よくそうしていたように、シャカの傍に身を横たえた。

・・時はけして戻りはしない。それでも還る場所が、自分にもあったのだ。


シャカに悟られぬよう、ムウは花に埋もれてひとり笑んだ。







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